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頼んどくわ
ちょうどその頃学校では、忍足が石田とタオルを被り、日陰で休んでいた。

「千歳が九州に帰って何日目や、銀」
「三日目。来月の合宿には間に合うやろ」

見上げれば飛行機雲によってできあがった道筋が途切れている。
あとどれくらいで猛暑の追跡から逃れられるか思案を巡らす二人は、気が遠くなる一方だ。

「謙也と銀さん、十分後に試合な。相手は小石川の健ちゃんと白石でいこか」

朗報とはとれなかった。
監督命令でも気が重い。
傍ら、象の耳を付けて不満げにふてくされる金色はいち早く抗議に向かった。

「オサムちゃーん! 謙也くんと試合したいー!」
「俺はお前としたない!」
「んもう、謙也くんったら意地悪ね」

乙女状態全開できらきらさせる瞳。
はっきり断られてもめげず、どこぞの少女漫画に出演していそうな言動が際立つ。

「ほな小春の希望を採用っちゅーことでシングルスに」
「お断りやわ」

すっぱり否定したご指名人は自分の隣を見て呆れた。
そちらにもふてくされている男が約一名。

「へっ、謙也なんか小春に負けてまえ」
「何やとこら!」

挙句ばかにされた一氏に突っかかり、笑いが生まれる。

“先生、私はテニス部のみんなが大好きだから離れます”

いつもならこの輪に入るはずの声は数日前消えた。
想起しては謎めいた告白がつかえて消せない。
煙草を指に挟み、口から吐く空気の固まりがしばらく漂う。

「……と、智香子」
「はい」
「俺は生徒の意思を尊重しときたいんやけど、どうにかならんもんかな」

暑さに弱く、へばる体が癖で動いた。
誰を指しているのかわかった智香子は間髪入れず、予想に回答を任せる。

「先生が呼んどる言うたらあの子も来ますよ。用事ある場合は無理に言われへんのですがね」

渡邊は奈留がテニスコートに顔を出さない理由を知っていた。
本人に聞かされはしなかったが、ある現場に出くわしたことで把握した。

「頼んどくわ」

あの性格だ。
一番世話になっている渡邊を思ってこその判断に違いない。
しかし、それはおかしすぎる。
離れた場所で雑談中の彼女にも、その心情は届くだろうか。

「例えば……同学年のテニス部員とか」

先輩を立てるタイプではないにせよ、ちらつかせておく。
せめて誰だと悩んでほしいのだがどうなるのやら。

「でも、それじゃおじさんにならないよね」

考えた末に至った真面目な反応は何とも間の抜ける内容だった。
財前が一つ年上の自分をおばさんと呼んでいるのに、同じく年上である謙也をおっさん扱いしても気づいてもらえない。
合宿まで、あとわずか。





To be continued.
20081124

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