付き合います?
とうとう夏休みに突入した。
遊び回るか勉強や部活に時間を費やすか、学生は二つに一つの選択を迫られる。
四天宝寺の場合、お笑いを観劇しに日々劇場へひた走る者も多く、慌ただしい大阪の夏。
奈留は学校付近でぶらぶら時間潰し中だ。
「おばさん」
彼女の前に現れたのは財前だった。
格好を見るからに部活帰りだと分かる。
おばさんという非常識な呼称で声をかけられた本人は、怒りもせず不思議そうな顔。
財前が奈留に話しかける回数は部内一少ないため、何を言ってくるかふと気になったのだ。
始まってもいない会話は長い沈黙により、終わったような雰囲気を漂わせる。
「やるっスわ」
缶ジュース一本差し出す手に、奈留は一応拒否する。
「もらえないよ。光くんが買ったんでしょ」
「受け取らな脱がすで」
「何が脱ぐの」
「あんた」
「今脱ぎたくないな」
「ほんじゃ受け取ってくださいよ」
さすが関西の人間は押しが強い。
なかば脅し気味な感覚だ。
「部活って午前中だけだった? みんな帰ったかな」
軽く礼を言い、その場に居座る彼に問う。
瞬く間に強まる日差しが大地へ降り注ぐ。
暑い、と思わず唸りそうな気温である。
「教えんときます」
財前は前触れなしでからかった。
わずかながら笑みがうかがえる。
予想外の言葉に戸惑う奈留だが、理解するよりも先に理由を述べた。
「みんながテニスしてるの見ながら智香子を手伝うの、日課になってたから懐かしくて」
あの日、いきなりテニスコートから姿を消した。
以来、奈留の夏休みはすっかり暇になってしまい、今も寄りたくても寄れない葛藤と戦っている。
なぜ日課と言えることを突然やめたのだろう。
「来ればええのに。合宿までびっしり部活やし、智香子おばさんもバテ気味でダウン寸前なんスわ」
二人が話す裏道は、静けさに包み込まれる。
民家が立ち並ぶ賑やかな居所だが通行人AもBも不在。
返事を待っても、答えに詰まる様子は相変わらずで。
「彼氏とデートの予定で埋まっとるっちゅー事情持ちやったら引き下がりますけど」
「そんなわけないよ」
再びからかうと、ようやく答えた。
「俺と付き合います?」
そしてこの一言が奈留の顔に元気をもたらす。
「百パーセント冗談だ」
「冗談スよ。おばさんはおっさんと付き合っとけばええんです。例えば……」
To be continued.
20081105
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