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包帯の時代
段ボール三十個に積まれた新刊の小説を本棚に入れる。
地道かつ地味なお叱りの内容だ。
英語と無関係な気がしてならないのだが。
たまに恋愛系の本もあり、忍足は照れくさい指を堪えて並べる。

「ほんと……すごいよ」

手伝う手を止め、改まって言い直すところがらしくなかった。

「運動神経良くて明るいし、友達たくさんいて、女の子もきっと謙也くんが大好きで」

嫉妬心から口が動いたふうには見えず、それよりも寂しさを感じるそぶり。
奈留は何かをくみ取ってほしそうな思いを抱えている。
静かな流れがそう感じさせた。

「智香子になんや吹き込まれたか」

左腕に包帯を巻いていた奈留。
つっこめと言わんばかりの芸っぽい演出がツッコミ魂を揺さぶる。

「これからは包帯の時代だって巻き付けられた」
「白石が知ったら毒手同士組もうとか言い出すな。はは」

本棚を触ればひんやりと伝わる冷温、かすかに響く振動。
下の階で、あわてんぼうのサンタクロースが慌てているのかもしれない。
飛び出した上手い軽口につられ、今度は奈留も笑みを表す。

「お二人さん」

冗談で和ませた空気が途絶えた。
大きめのTシャツやジャージ、そのうえ青いテニスラケット所持とくれば正体は彼女しかいまい。
テニス部マネージャー、智香子だ。

「そっちの色ボケ男。来い」
「あれ、謙也くんツッコミじゃなかったっけ」

ボケとツッコミの意味と本気で間違える。

「『ええとこ邪魔すんなや』っちゅー顔やで」
「すぐ戻るからな!」

反射的に気が進まない体はあっさり応じた。
図書室と反対側の突き当たりへ全速力。
あまりのスピードに腕を掴まれた足が浮く。

「で、用は」

乱れ気味な髪を整え、智香子が返答する。

「あんたに初めて話すわ。うち、実家帰らなあかんから合宿途中参加」
「オサムちゃんに言うてこいや!」
「なんとなく、反応見たかってん」

嬉しいのか物足りないのか、両方ともとれる表情はどんな時でもつっこむ彼に放った。
しかしいまいち伝わらない。
それどころか話は逸れていく。

「自分、包帯の時代を望んどるらしいな。岩崎の左腕に包帯ぐるぐる巻き付けたって本人に聞いたわ」
「え、冗談抜きでしてへんよ?」

これ以上待たせるのが億劫になり、忍足はおそらく最後であろう言葉を喋る。

「せやか……てっ!」

もしここでイエスと答えてくれていたら、急いだおかげで持ってきた本を落とすことも、タイミング良く左足親指に当たることもなく済んだ。





To be continued.
20081020

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あきゅろす。
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