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青春よ
七月十八日。
四天宝寺で終業式が行われた。
恒例となった校長のジョークは好調。
夏休み前の心得を叩き込み、教師一同身も心も引き締まっていたという。
一学期はこうして終わった。
教室から出てくる生徒を見送りつつ、少年は廊下である人物を探す。
あっちへ行き、こっちへ行き、それでもいない者はいない。

「小春はどこや」

溜まりかねて隣の七組に入り込み、奈留にたずねた。

「どこだろ。ユウジくんと一緒だと思ってた」

帰り支度が済んですぐさま奈留は立ち上がる。
完全に開いた鞄のチャック。
転ばなくては気づきにくいミスだが、一氏は教えなかった。
転んだ様に笑いをもらうためだ。
二、三人残っている友達と別れて入り口を踏む。
案の定、期待通りにこけてくれた。

「公演近いんに行方不明やであいつ」
「終業式終わりもやるんだ」
「笑いは保証するで暇な日は寄ってってや」

散乱した筆記用具やノート類を集めて渡し、話題を華月のお誘いにそらす。

「奈留ちゃーん!」

邪魔が入った。
思いきりへこむやいなや声の元をたどる。
といえども、一氏は聞いた時点で薄々感づいていた。

「おもしろいね。眼鏡に目ん玉描いてる」
「俺の名前呼べや小春ぅ」

晴れ晴れと登場したのは、“邪魔”な部類に置きたくない相手だ。
眼鏡をきらりと光らせ、怪しくにやける。

「謙也くんが呼んでたわよ」
「私?」

疑わしい報告だと切り捨てていいものではある。
普通ならば、裏の真偽を読み取れる範囲ではある。
上手くはまり、図書室へ駆ける奈留は傑作だ。

「何謙也のとこ行っとんねん」
「青春よ青春。あ、言うてたら思い出したわ」
「浮気や浮気」
「関東大会の青学対氷帝、青学が勝ったんやて」
「とっくに知っとる」

華がなくしつこい男と話すのは嫌で、適当にごまかすが効果なし。
肩を組むには組んだものの、苦笑いを浮かべる金色であった。

「どないした?」

一人こつこつと本棚に忍ばせる手が止まり、作業の中断を余儀なくされる。
いまだ残っていた生徒の確認、そして思いもよらぬ者が同じ場に入ってきたからだ。

「小春くんに『謙也くんが呼んでる』って聞いたの。わ、重そう」
「(呼んでへん……)岩崎は手伝わんでええよ。俺が受けた罰やし」

その言葉が奈留の耳に届いてしまい、彼は後で反省した。
彼女はひどく心配性な一面を持つ。
いつもそばにいながら、うっかり忘れていた。

「いやな、英語の先生が授業中に大声出した俺を……」

突き刺さる不安そうな眼差し。

「こ、これは俺にしか任せられへん重大な仕事なんや」
「すごい! あの厳しい先生に信頼されてるんだね」

相手にすれば疲れを覚えるが、慣れてくるとかわいい。
忍足の汗は、少なからずそう物語った。





To be continued.
20080913

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