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部外者だし
三十五度の教室は、クーラーなしでは干上がる温度である。
家に帰ったらニュース番組で、今夏最高の暑さだったと報道されることだろう。

「ホモセクシュアルコンビめ、今年こそフライパンにしたるわ」
「こてんぱんだよ」

酷暑もねじ伏せるほど燃える智香子。
彼女の隣は少々疲れるが、二学期の席替えまで我慢だ。
甘くツッコミを返し、ひらめいた着想をひたすらネタ帳に書き起こす。

終業式を明日に控えての一学期最後の授業。
中身はチョークにまつわる豆知識披露対決や、ほふく前進競争などもろもろ。
教師が普通でないため生徒もおふざけで気ままに奮い立つ。

「早よ打ち合わせ済ましたいけど夏休みは合宿や大会づくしやしな」

フーッと大きな息をつき、ぼそぼそ漏らす。
言わば真夏のお祭りはマネージャー強制参加なのだ。
奈留が好奇心にそそられた。
去年誘われた際は「部外者」と自分を位置づけ、断っている。
あの時の監督達の残念がる様子が痛かった。
しばらくそれを引きずり続けたくらいだ。

「ついて来るなら先生に言うとくけど」

マネージャーはにやり、道連れ候補に諭し始める。

「私はいい。部外者だし」
「あんた来たら絶対おもろなるで」
「ドジ踏みまくりの人間が一人いるだけでお荷物だよ」
「よう手伝いしてくれる人間が一人おるだけで場は和むもんや」

口で言いくるめられた一氏との論争がよほど悔しかったのか、今度は負けない、と気迫を見せる。

「奈留はマネージャーみたいな位置やで立派に」

ほふく前進中でなければばっちりの決め台詞。
二人揃って息切れしつつ、同着という結果に終わった。
選択肢を前に揺れる気持ちはどう動いてもおかしくない。

(こんなん蔵ノ介やったら朝飯前やけどあいつはなぁ……)

これはどこかの男に向けた心配事の意を込めている。
すなわち「あいつ」とは……。

「おい白石。誰か俺の噂しとる」

離れた教室で珍しく勉強に励む忍足を指す。
英語の時間だけはうかつに騒げば仕置きが待つ。
何しろ教育熱心な三十三歳独身がチョークを取る堅い授業なのだ。

「ベタにくしゃみするんなら認めたるよ」
「ただの勘にくしゃみ一回分浪費できるか」
「しゃあない。俺が出さしたろ」
「出らんわ!」

うっかり立ち上がってつっこんだ途端、忍足が黒板消しに倒れた。

「忍足ぃ! 昼飯抜きにさすぞ」

こういうふうに、剥き出しとなった私語を罰で締めくくる。
実は噂の大元が奈留だと思い浮かれていた忍足。
彼が哀れな役回りで終わるか終わらないかは黒板消しのみぞ知る。





To be continued.
20080804

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