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強い意気込み
智香子のことなら気にしなくていい。
岩崎が気づかなかったのが悪いとか考えるのはおかしい。
付け加えようとした言葉は、喉まで出かかってこらえた。

「女の子たちの……」

突然口を開く奈留。
顔を下げたまま続ける。

「女の子たちの気持ち、よくわからないけど、テニス部のみんなが好きっていうのは私も同じだよ」

おそらくファンを指すのだろう。
視線だけ忍足に合わせて、語りかけた。
こんな距離で見たことがなかった相手の顔。
忍足は逸らすも、奈留はまっすぐに見つめた。

「こうやって手を上げちゃうと今の謙也くんみたいな顔にさせるのに、なんでだろうね」

苦笑いで不思議がる。
今の自分がその瞳にどう映ったかは謎だ。
だが、決して良い顔ではないとわかる。

「さあな。考えてもしゃあない。俺かて女はようわからん」

そこまで言って、やっと気づいた。
いまだ女を抱き締めている現状に。
急いで離した腕には熱にも似た温もりが残っており、困りつつ嬉しくもあった。
大胆な行動。
二人の空間。
羞恥(しゅうち)に駆られる頬が熱い。

「お、俺らさ、合宿来てるやん」
「うん」
「頑張ろうな」
「うん」

話題を変え、照れくささをごまかす。
一息つき、改めて奈留と向き合った忍足は赤面してしまった。
合宿所に来た当初、財前に言われた“テニス第一”の忠告がこの時頭から消えた。
伝えるなら今。
咳払いを挟み、真剣に話す。

「もし、うちが大会勝ち進んで優勝したら」
「すごい!」

奈留が胸の前で両手を叩いて、なぜか喜んでいる。
遮られた言葉は宙に浮かんだ。

「去年も思った。全国大会で優勝するっていう強い意気込みがベスト4に導いたんだよね」
「あ、ああ」
「今年も全力で頑張ってね!」
「あ、ああ。……ちゃうねん岩崎!」

廊下に響くやりとりは、ずいぶん長く続いた。
そうなれば他の部員側に動きがあるのは必須のこと。
部屋を出て休憩したくなる者も現れるわけで……。

(ださっ)

通り道を塞がれ、廊下の角から一部始終を見ていた後輩は先輩に心の中でつっこむ。
ついでに携帯で写真を撮った。
何枚か撮り溜める。
携帯のカメラ機能は、こういった事態に出くわすと本領発揮するのだ。
おもしろいネタは掴めたが、放っておくとどんどん先輩の格好悪い姿が目立ってしまう。
かといって助け舟を出すのは面倒なため、部屋に戻るつもりだった。

「奈留遅いわぁ」

ちょうど良いタイミングで遠山が歩いてきた。
何やら奈留を捜索中らしく、上下左右にキョロキョロ首を回す。

(二人の進展阻む刺客入れたらおもろいやんな)

角を曲がって見つけた財前に嫌な笑みで待たれているとは知らず、無邪気に近寄る。

「枕全部壊れてもうた!」
「探しもん、あっこおるで」

親指が指す先。
遠山は目をぱちくりさせ、こっそり覗く。

「な、おるやろ?」

伸びる二つの影が、好奇心剥き出しの幼い視界に捕らえられた。





To be continued.
20110502

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