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神経過敏
夕飯を食べ、片付けも終えた。
各々の部屋で自由時間を過ごす部員たち。
外は雲の手が伸びており、すでに真っ暗だ。
予定していた花火は延期となり、何もすることがない。
そんな中、ある話題が舞い込んだ。
奈留がいた女子トイレに、間違って遠山が侵入したとのこと。
騒ぎ声も上げず、会釈して去ったというのだから変わっている。

「奈留は入られても騒がんなぁ」
「相手が金ちゃんで、もう手洗いしよったからちゃうの」

白石と忍足はその状況を分析し、話題作りに奮う。

「あんだけ鈍感なら俺が入っても平然としとるできっと」
「なななな何爽やかに意味深な言い方してんねん」

初めは落ち着いて聞いていた忍足。
だが、妙に意識する相手に関してはそうもいられない。

「下界やと女子トイレ侵入罪で捕まっとるで」
「そんな罪名やったっけ」

また落ち着きを取り戻す。

「あんだけ鈍感なら、逆に男子トイレに迷い込む可能性も高いわ」
「へへへへ変態や。白石が良からぬ妄想に浸っとるで危険や」

次は読んでいる途中の本をくしゃくしゃに折り曲げてしまった。
これには白石も呆れる。

「あほ、よう聞け。お前は奈留の話題出すたびに冗談も見抜けんくらい神経過敏になるっちゅーこっちゃ」

勘違いもはなはだしい。
自分の変わりようを教えてあげているだけなのに。
忠告とともにふて寝した。
ちらっと横目で忍足を見る。
予想通りの赤い顔。
おかしくて、噴き出しそうになった。

「やけに静かやなぁ」

壁に背を預け、様子をうかがう千歳に今度は話しかけた。
全室が和室で三人の部屋は、誰かが口を開かなければ静まり返る。
一言でいえば男だらけの“寂しい”空間だ。

「トイレ談話がここまで長かと思わんかったたい」

率直な感想を述べた。
千歳はからかい相手が他の奴にいじられていて、口出しを避けていたのである。
わずかに会話のつなぎを思いついた白石は答えた。

「和式と洋式どっちがええ?」
「まだ続くと!?」

とうとうトイレの形にまで発展した。
つっこまれても続くものは続く。
その瞬間、雨粒が窓を叩いた。
ザーッと空が洗われる。
午後の天気予報で降水確率百パーセントを記録していたこの地に、雨が降り始めたのだ。

「降ってきよったな」

忍足はかなりの長さを誇ったトイレ談話のおかげで、トイレに行きたくなり畳に手をつく。
ふと、奈留の顔が浮かんだ。
泣きたかっただろう。
つらかっただろう。
あの包帯が奈留の心身を縛っているに違いない。
これからは自分が支えていこう。
守っていこう。
決意を眼差しに秘め、手足に力を込めた。

「白石。岩崎はもう大丈夫や」

“俺がいる”と言わんばかりに襖を開ける。
頼もしい。
廊下の光よりも明るい希望。
口に出したからには貫いてもらわなければ。

「えらい自信やな」

白石の言葉に、にっと笑って出ていった。
緩く、柔らかい表情で。
遠回しに背中を押すチームメートの存在が、どんな励ましに通じるか。
まだまだ、誰にもわからない。





To be continued.
20110404

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