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笑かしたろか
「奈留がそんなん聞いてくるとか珍しいな」
「そうかな」

本当に珍しげにじっと奈留を見つめる。
変なボタンでも付いていやしないかと。
もちろんそんなことはなく、普段どおりマイペースの空気を放っていた。

「さて、と」

一氏は、景色が一望できる崖へ走った。

「俺は小春がおらな死んでまうー!!」

山びこをやってみたかったようだ。
重ねて戻ってくる声。
羽を立て、木を離れる何羽かのカラスに「すまんな」と詫びる。
これに黙っていないのが遠山だ。

「ワイもやる!」
「おう、やれやれ」

すぅーっと大きく息を吸い、お腹が膨らむ。

「タコヤキ食いたいぃぃぃーっ!!!」

大声コンテストと勘違いしているのだろうか。
鼓膜にジンジン響く。
先ほどのカラスも羽が止まり、崖の下に落っこちてしまった。
とてつもない破壊力に驚きつつ、先輩二人は拍手した。

「奈留もやってみ! めっちゃ響くで」

はっと我に返る。
体操座りの姿勢を崩す。
草の生えた地面に手を置き、膝に力を入れて立ち上がった。

「うぐっ」

前に出たところで転倒した奈留は、まだ熱を持っている体に気づいた。
衣服の汚れを払いのけ、心も綺麗さっぱり忘れる。
実際はそううまくいかないが。

「『うぐっ』っちゅーて転ぶ奴初めて見たわ。どこ行っても体不安定やな」
「ここの石が固いんだよ」
「石はもともと固いもんや」

上昇する気温。
だいたい二時を回るくらいになると、その日一番の暑さが感じられる。
ということで今、時刻の見当はついた。
スケジュールでは、四時には下りなければ夕飯の支度がある。
わかっていても、どうしようもないのがこの方向音痴三人組。

「みんながいないとこんなに静かになるんだね」
「俺がつまらん奴みたいに聞こえるで」

のんびり時間は流れる。
何をしようと全世界、同じだけ針は進んでいく。

「笑かしたろか」

にやっと怪しく笑む。
確かにレギュラー陣が欠けた穴は大きい。
だが一氏にとってこれはチャンスだ。
元気が足りない奈留をどこまで笑わせられるか。
腕を試してみたくあった――。

「……ありがとう」
「礼も言えへんほど腹筋崩壊させるつもりやったのに」

まあまあ悪くはなかった。
四天宝寺華月でなら大歓声がもらえるネタ揃いで、手応えも掴めた。
観客が一人まったく聞いておらず、奈留が笑うタイミングを失ったのも乙だ。

「もうええ金太郎。他の奴ら探すで」

山びこに夢中な背中をコツンと叩く。

「ワイはまだまだ叫べる!」
「お前は腹筋丈夫すぎんねん」

本来の目的から外れた行為を続けようとする遠山は、なかなか懲りない。
いっそ置いて行ってもいいが、心配して奈留も残ると言うだろう。

「なぁなぁ、奈留叫んでや! 『謙也のあほっちゅー話や!』って」
「えっ」

一氏自身もおもしろそうなため残りたくなった。
みんなと合流できるのは……。
それよりもみんなを探し出せるのは……。
いつのことやら、気が遠くなる。





To be continued.
20110211

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あきゅろす。
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