[携帯モード] [URL送信]
無意識に
午後は登山。
山の中腹にある合宿所を離れ、頂上へ向かう。
初めは順調に全員で出発したが、数分も経てばはぐれる者がちらほら。

「クワガタがおるで!」
「二匹もいるね」

遠山と奈留は文字どおり迷子だ。
散策を兼ねて体力作りでも、と予定表に入ったイベントで恥ずかしい思いをしている。

「みんなどこ行ってしもたんやろ」

一直線の小道を走り続けて、いつの間にか正規ルートから外れてしまった。
他のみんなが勝手にいなくなったと本人たちは錯覚し、溜め息をつく。

「こういう時はむやみに動かないほうがいいよね。金太郎く……」

何かを感じ取った遠山は大木に駆け寄る。
そこでガサッと立った音を聞き、奈留は目を瞑った。
縮こまらせた体。
それは防衛本能が働いた結果である。

「一人おった!」
「見つけてきたんだ!?」

誰かの腕を引っ張り、にこにこご機嫌顔で歩いてきた。
なぜ彼がこんな所に。
膨らんだとっさな疑問に感づいたのか、しぶしぶ口を開いた。

「俺は迷子ちゃうど」
「じゃあ元の道わかる?」
「……パス」

一氏は吐き捨て、地べたに寝っ転がった。
髪を揺らす夏色の風。
なんとなく懐かしい雰囲気が心地良い。
奈留もその隣に腰を下ろす。

「小春くんともはぐれたんだね」
「あいつ、まったく口聞いてくれへん」

理由は聞かずにそっとしておくほうがいい。
ヘアバンドで両目を隠すところを見るに、深刻な面持ちだったため、そうすることに決めた。

「ワイ見たで! 部屋でトランプしよったら千歳が来て……」

無理やり回想を始める。
止めても間に合わなかった。
無邪気で悪意のない喋りは、そんな気すら起こさせない。
静かに話を聞く体勢に入る。

“山登りばするけん頂上着いたら景気づけに漫才頼むばい”

金色と一氏、コンビで漫才などいつもやっている。
二人が争う光景がどうしても想像できない奈留は、続きに耳を傾ける。

「ほんでネタ合わせ中に、あっち向いてホイを取り入れるかどうかで揉めてん!」

えっへん。
胸を張り、ちゃんと説明し終えた遠山の顔つきは清々しいものだった。

(つまり意見が食い違って、お互いにあっち向いてホイしちゃったのか……。んなあほな)

ノリツッコミをする自分の頭に、不自然な影が重なった。
忍足の顔が浮かんできたのだ。
反射的に頬を叩く。
ほんのり体が熱い。
首をブンブン振ると、不思議がる一氏が目に映る。
気持ちを悟られまいと違う話題に逸らした。

「あの、ユウジくんは小春くんが好きだよね」
「当たり前やん」
「いつからそう思い始めた?」
「企業秘密や」

答えを得られなかったことにがっかりする奈留。
暖かい気候である証拠か、鳥のさえずりが徐々に増えてきた。
皆、どこへ行ったのだろう。
だんだん心細くなる。

「せやけど、一旦気づいたらおかしなるよな。そいつ以外じゃあかん、そいつのことしか考えられへんって。ほぼ無意識にやで」

屈託ない笑顔で起き上がる一氏を、どんな顔で見ていたか。
それは脳裏によぎる相手へ向けた、眼差し。
誰かに対する、恋の訪れ。
もうじき……わかる頃。





To be continued.
20110124

[*前][次#]

22/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!