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恩もあるので
眩しい日差しに押され、レギュラーがテニスコートに集まる。
試合前は大体そわそわするもの。
練習とあってもそれは同じ。
ここでは例外が多すぎて、それに頷けないが。

「遠山と銀さん、コート入れ。もう片方は」
「俺やるわ」
「はーいっ!」

率先して挙手した忍足に、金色の一声が被さる。

「待ち待ち。そっちはシングルス用や。ほんなら小春と一氏、謙也と……財前くん、ダブルス用に行こか」
「無理矢理感たっぷりやないですか」

呆れて溜め息をつく財前をよそに、組んだ相手は張り切っていた。
わだかまりがうっすら解けた今、ようやくテニスに熱中できるのだ。
その思い一つでコートに立ち、試合感覚を取り戻す。

「謙也くんったら、相変わらず守備範囲広いわ」
「俺がうまいことやったる!」

金色・一氏ペアがチームワークの良さで攻めていく。
シングルスもダブルスも、白熱したゲームとなった。
審判、記録係、試合に出ている者。
人の手はいくらあっても足りない。

「この人数やと役割分担もギリギリやな。奈留来てくれて良かったわ」

滴る汗をタオルで拭う。
ククッとのんきに喉を鳴らし、隣に視線を移した。
現段階での一人一人の出来が、合宿内容に大きく左右する。
サポート役は多いに越したことはなく、チラッとつぶやいた。

「先生の頼みは、どうしても断れません」
「そやで。断ったら一コケシやらへんからな」

冗談めかす台詞を吐かれ、引きつり気味の口角が上がった。
自分がここにいる理由。
それをわかってみたい。
だから探しに来た。
青葉揺れる複数の木々を眺める。

「恩もあるので……」
「奈留」

誰かが思考を止めた。
突然で、一瞬肩が震える。

「ノート取っとる?」

奈留はダブルスの試合を記録する係。
机の上のノートに目をやると、まだ白紙に近い状態だった。

「たっ、大変!」

試合はとうに進んだのに。
あたふたする奈留の姿を見かねて、ベンチまで下りてきた白石。
金色も走って手伝いに加わり、途中経過を教える。
二人の暗記力に頼る形で、なんとか空白を埋められた。

「ごめん。ありがとう」

ほっと胸を撫で下ろす。
怒りもせず、文句も言わず、手を貸してくれた。
みんなは本当に優しい。
心の底から、そう感じる。

「続き頑張りや」
「アタシたちを応援するんやでっ!」

定位置に移動し、激しいラリーが再び始まった。
笑いを極める戦いだ。
これは真剣勝負ではなく、おふざけ的展開も必要という意見を通した金色・一氏ペア勝利の結果。
小道具が散乱するテニスコートなど、どこで見られるだろう。
おかしくて、つい表情が緩んだ。

(ちょっと顔つき変わってきとるやん)

あの時よりも鮮明にうかがえる。
このまま少しでも良い道に向けばいい。
煙草をくわえる渡邊の視界は、奈留をずっと離さなかった。





To be continued.
20110110

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あきゅろす。
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