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お疲れさん
熱気ムンムンの教室を出て、いくつか窓を開けると涼しい風が吹き込んでくる。
爽やかな朝。
校舎周辺を包むのは運動部の掛け声、登校したての生徒のはしゃぎよう。
本日も活気溢れる一日が始まった。

「お疲れさん」

ピースを作った右手に包帯ぐるぐる巻きの左腕。
智香子がだらけて廊下を歩いてきた。
はっきり出オチにもなっていないと断言できる。

「蔵ノ介くんのモノマネみたい。朝練だったんだよね。お疲れ様」
「二年にやられたんや。ふっ、うちは疲れてへん」
「はいはい」

教室へ戻ろうと回れ右した二人は、がやがや騒がしい盛り上がりに気づく。
原因は隣のクラス。
いつの間にか人だかりができている。

「S―1GP予選突破ぁ!」
「今年も優勝いただくわよ」

机に乗っかり宣言する名物コンビを見に来た人の多さは圧巻だ。
八組が軽くお祭り騒ぎになった。
なんと凄まじい影響力だろう。
S―GPの予選結果に涙を飲んだ挑戦者たちが、優勝候補である金色と一氏にエールを送る。

「小春くん達、燃えてる。あ、今だ」

先生から金色への言付けを預かっていた奈留。
言い出すべく人ごみをかき分け、八組に踏み入れる。
だが、聞き捨てならない演説がお笑い魂光る野心家に火をつけてしまった。

「許すまじき発言やな。それより自分ら大事なイベントあるやろ」

ドン、と突き飛ばされた人々のピラミッドが廊下で完成した。
奈留もその山の一部として埋まり、ひしゃげる。

「智香子ちゃん」
「ほっとけ小春。こいつ、去年俺らに負けた準優勝者やで無駄無駄」

大切な恋人的存在との時間を阻む奴は皆再起不能にするべし。
これで引き下がりはしないとわかっていても、一氏は憎まれ口で挑んだ。

「中学最後の部活の大会があるっちゅーことを忘れんどきや」
「はいはい」
「ユウジのボケナス!」
「はいはい」

気に留めず身を躍らせて机から降りる。
それより後はもう頬がゆるみ、色ボケ状態で相方の所へ駆け寄る。
口で負けてへこたれた智香子を尻目に。

「教頭先生が小春くん呼んでたよ」
「あらやだわ。何かしら」

乙女全開の金色は玩具の眼鏡に落書きしている。
彼らが手を振り走っていくと、後ろの方で陰鬱な空気が漂った。
何かと思えば床にうつ伏せる相方を取り巻くほの暗い霧。

「教室戻ろ」
「うちは……うちは、はいはいロボットか」

あくまで優しくなだめないと、繊細さが売りの彼女はすぐに個性を見失う。

「私も頑張るよ。ね、教室戻ろ」

S―GPでの優勝を誓い、テニス部サポートコンビはようやく歩き出した。





To be continued.
20080801

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あきゅろす。
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