[携帯モード] [URL送信]
失恋のもと
その頃、監督の間では熾烈な争いが繰り広げられていた。
元気印の遠山を筆頭に、前後左右へとりあえずぶつけ合う。
のんびり投げる遊びが力強く投げる遊びに変わった。
部屋はめちゃくちゃだ。

「ワイの威力見てやみんな!」

注目が集まる叫びを挟み、襖目掛けて枕を放った。
すると同時に襖が開く。
なんというタイミングの悪さ。
そこに立っていた人物の顔面にぶち当たり、場は静まり返る。

「あっはは、謙也帰ってきたな」

怒りマークレベルは一。
まず電気をつけて、へらへらごまかす後輩に近づく。

「金ちゃ〜ん?」
「お、怒らんといて」
「無理っちゅー話や」

すると、左右両方より枕が飛んできた。
それらは忍足の頬をかすめるような軌道を描く。
思いきり体を反らしてよけたまでは良かったが、勢いづいて仰向けに倒れた。
後頭部強打につき、しばらく戦闘不能。

「いつもの色ボケはどこ行ったとね」
「女がおらんと発動不可能説に一票入れますわ」

怒りマークはレベル二。
今触れてほしくない話題に触れられ、抑えたはずの意識を呼び起こすはめになった。

“のしかかってくる”

切ない瞳。
引きつり気味の口元。
あんな表情にさせてしまった。
自分は奈留と少しでも仲良くなりたかっただけ。
その結果招いた、自分を応援してくれているファンの手による嫌がらせ。
どうすれば両者を傷つけず悲しませず、解決できるのか知りたい。

「奈留はんの姿が見当たらへんな」
「ぶっ」
「ほんまや!」
「ぶっ」
「白石もばいね」
「ぶっ……ってお前ら狙いすぎやろ!」

怒りマークはレベル三。
先ほどの攻撃を皮切りに、枕がボコボコボコボコ……。
このままでは顔が潰れる。
フーッと息を吐き、忍足は立ち上がった。

「あの二人はええねん。ほらほら、かかってきぃ金ちゃ」
「アタックオンリーワン!」
「ぶっ」

ようやくやる気が出たところで金色の攻撃を受ける。
構えや打ち方など、もはやバレー選手の領域だ。

「一人脱落。さいなら謙也」
「お前も脱落せぇやユウジ!」

怒りマークはレベル四。
なぜこちらにばかり……と不満が先走る。
忍足自身、皆の意図を見抜けていなかった。
誰だって仲間に元気がないと心配だ。
怒っていい。
叫んでいい。
だから笑え――。

「この合戦は倒れた奴に負けが付くルールや。敗者は罰ゲームで勝者に笑いを一つ捧げなあかんでぇ!」

指揮官の渡邊がもっとも強く、そう願っていた。
たった今決めたゲームの趣旨を説明後、にやりと笑う。
ギャグなど持ちネタを取られたくなければ真剣にぶつかり合うべきである。

「頑張るわ」

気持ちを入れ替えた瞬間、また忍足が枕攻撃の標的となった。
怒りマークはレベル五にまで達し、爆発寸前だ。
いくら小石川であろうと容赦はしない。

「わざとじゃなかけんこらえろ。イライラは失恋のもとばい」

千歳のフォローが案外当たっている気がしたようで、抑えた。
解決策は、まずイライラ感を消すこと。
恋関連の単語を出すのはわざとに思える男がくれた助言だ。

「あっ、奈留ちゃんも蔵リンもおかえりー」
「ただいま、小春くん」

一日目の夜、二人は無理して笑顔を作った。





To be continued.
20101216

[*前][次#]

19/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!