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正直に
部員たちは風呂上がり、突如集合がかかった監督の間に立ち入る。
電気はついておらず、ろうそく一本で照らされた座敷。
奈留は内心ドキドキの状態で、輪になって座る周りに合わせて腰を下ろした。

「準備はええかお前ら」

渡邊が深く息を吸い、静かに口を開く。

「ほんじゃ“合宿恒例・枕投げで笑いを盗め、とことん潰し合い合戦”開始ぃぃ!」

誰も頷いていないが勝手にそれは始まった。
一斉に枕が宙を舞い、騒ぎ出すのはその場のノリに任せる彼らの気質ゆえ。
ルールや方法など、説明なしで遊びは進んでいく。

「投げ合いしとるだけやん」

白石のツッコミに奈留は苦笑いで頷いた。

「去年もやったの?」
「去年はかくれんぼしたで」
「そうなんだ」

ちょうど隣にいるため、暗闇の中でも会話のやり取りができた。
ろうそくが頼りの薄明るさは、表情などを隠し通す。
夜は合宿メニューから外れた比較的自由な時間が多い。
日頃学校のテニスコートで頑張る姿しか見てこなかった身にとって、新鮮な経験となる。

「奈留。俺らに近づいたら容赦せん言うたの誰や」

発した言葉はひっきりなしに飛び交う外野の声と重なり、他の者には聞こえない。

「見て……た?」

奈留だけが一瞬肩を震わせて反応を表す。
優しく微笑み、目線を腕に落とす白石は意味深な言い方で続ける。

「正直になったんやな。ここじゃ話しづらいか」

襖に手をかけ、こっそり部屋の外へ誘い出した。
戸惑い気味の表情ではあったが、おとなしくついて来る奈留。
誰にも内緒で二つの影が消えた。

「ぶっ」
「やったぁ、謙也くんゲットよ!」
「お前加わらへんのか」
「めんどいっスわ」

喜ぶ小春の横で、小石川と財前が座って傍観している。
皆、疲れ知らず。
九時を回る時計の針は、彼らの前では無意味だ。

「ぶっ」
「今日の銀は容赦ないでぇ! ワイにも当ててや!」

またもや標的にされて尻餅をつく謙也にいつもの元気はない。
周りを黙らせるほど珍しい静かっぷりだった。

「すまん。当ててほしそな顔してはったから」

石田が差し出す手は自分よりも大きく強い。
握るのは避けた。
小さな親切が痛かったのだ。

「もうちょい顔作ってくるわ」

三つ目の影は一段と寂しく廊下に伸びる。
トイレで鏡と向き合い、昼間の話を思い返せばすぐさま浮かぶ真相。
白石が言っていた。
奈留をあんなふうに変えた原因は自分のファンだと。
つまり自分である。
やがて枕投げの現場に戻る途中も考える。
何かが起こった結果、大事な人を傷つけた。
その何かがたまらなく気になった。
けれど、知るのが怖い。
そんな時に限って、知りたくないことは耳に入る。

「実は……ね」

扉の先の言及模様。





To be continued.
20101110

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