[携帯モード] [URL送信]
傷を隠す
合宿最初のテニス関連スケジュールは、必殺技を交えた試合形式の練習だ。
ユニホームに着替えた九人の男。
真夏の太陽の下、どこよりも熱い対戦が続く。

「次は光くんだよ。アップ済ませといてね」

建物の日陰で休む財前を呼びに行き、優しく準備を促す。

「おばさん、俺を動かしたかったらもっとびしびし言わな調子狂うてまうで」

だが財前は、智香子にくっついているだけの存在としか思っていない奈留を困らせる言い方で追い払った。

「ええから早よせっ!」

聞き捨てならない。
忍足がだらけたその背中を叩く。
興味がなさそうに振る舞ってはいるものの、しっかりと女の行動を追う目はある種、鷹よりも鋭い。
奈留は財前が立ち去った後、二人きりを避けるかのようにそそくさとスコアボードの所に戻った。
愉快班が空いているコートの横に集まる。
そこでは遠山の希望で、一氏と金色が“夫婦間の会話”という新ネタを披露していた。

「長袖暑いやろ」

笑いてんこ盛りの合宿に初めて来た奈留。
普段の天然ボケを発揮した線は極めて薄い。

「平気。わりと涼しいし」
「がんがん日ぃ照っとるけど」

額にうっすらにじむ汗。
隠してかばう包帯部分。
やはり思った通り、黙り込んで俯く姿が白石を確信させた。

「サポート役は大変やで」

それ以上深くはつっこまず、そっと肩を叩いて練習に集中する。
自分が部長であれなかれ、彼は責任を感じているのだ。
事態はずいぶん前から危惧していたはずだった。
誰が良い悪い、そんな問題ではない。
ただ、悲しかった。
予定時間ちょうどにメニューが終わり、部屋に帰る。
千歳は大方散歩にでも繰り出したのだろう。
畳に寝そべる人物の重たい雰囲気を感じ取って、一言発してみる。

「ここもあかん空気やな」
「待つの長すぎて倒れるっちゅー話や」

返事が返ってくるだけましだ。
ふう、と息を吐き心を落ち着かせる。
今なら真剣に話を受け止めるかもしれない。
立ち上がり、窓辺へ向かう忍足に話しかけた。

「奈留は完全にお前を避けとるで」
「気のせいやろ」

一度奈留のことを考えると、ずっと気になってしまう。
頼むから何も言わないでくれ。
若干丸まった背がそう訴える。

「お前のファンがやらかしてもうた傷を隠すために」

聞きたくなかった。
緑豊かな山の景色から、事実を明かす仲間の顔に視界を移したくなかった。





To be continued.
20090501

[*前][次#]

12/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!