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テニス第一
八月五日。
小型バスに揺られ、目指す合宿所が覗く大阪府内の某山中。
バスガイド役の金色は上機嫌で歌や漫才を披露し、場を盛り上げた。
そして元気溢れるみんなにつられて奈留も笑ってばかりいた。
一行が降り立ったのは古めかしい宿舎。
各自荷物を持ち、地味で暗い外観に驚愕する。

「さあ、酔うた奴おったら川行って笑いにまみれてこい!」

響き渡った壮快な声を皮切りに一同は散らばる。

「ここが俺らの合宿所か」
「少し錆びとるようや」

小石川と石田は建物を見やり、続いて白石も横に並んだ。

「オサムちゃんの貧乏くささは今に始まったことやない」

下界より幾分涼しく見張らしも非常に良い場所で、夏の風物詩、蝉が大樹から鳴き声を聞かせる。
飲み物はクーラーボックスにありったけ詰め込んである。
尽きた際は誰かが町へ下りれば解決だ。
にこやかな表情の白石は一旦肩から荷物を下ろす。

「人数足りんばい」

草むらだと出なかった音が、コンクリート状の地面を踏むと出た。
その下駄は前を歩く二人に追いつく間際止まる。

「小春くん達どこだろ」
「あいつらまだバスに……俺呼び行くわ」
「私が行く」

至近距離でこそこそ見つめ合うのは結構だが、奈留はすぐ逸らした。

「川あったでぇ!」

何かあったのかもしれない。
能天気に飛び跳ね突っ込んで来た後輩を連れ、千歳が入り口へ進む。

「川やて。後でシンクロしましょ」
「おう」
「おるやん!」

背後でくっつく行方不明者。
つい数秒前のやりとりが無意味と化すかに思われた。

「遅れるな青少年達ぃぃ!!」

監督兼引率が大きな扉を開けて立っており、他の部員もすでに中にいた。
召集といえども奈留が戻らない。
とりあえずバスの方角を見てみる忍足の視界にちょうど長袖Tシャツにジャージ、わりとラフな格好で走る姿が入った。
優しく手を振り、眉をわずかに下げて。
急ぎもせずあくび続きの後輩は背中を押され不機嫌だった。

「もう誰もいなかった」
「それが普通や。おい、合宿スケジュールについてこれるんか」

財前光。
聞けばバスで爆睡したのだと言う。

「自分こそ、テニス第一に動く意気失わんとってください」

歩み寄る足の隣に自分の足が並んだ矢先、そうからかう。
全国大会に向けての合宿は多少お遊びは交えることを差し引いても、いちいち意識する時間がもったいない。
一つずつ強くなるためだ。
余分な気持ちは心に留めておこうと決め、再び入り口を目指す。





To be continued.
20090115

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あきゅろす。
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