[携帯モード] [URL送信]
プロローグ
学校では、思春期の男と女が一日のおよそ三分の一を共に過ごす。
偶然と思える出会いも実は必然で、移り変わっていく季節もまた、定めにより流れる。
四天宝寺中学校に規則はあってないようなもので、生徒も教師もお笑い三昧。
自由を具現化した場所だ。
そこに日常会話のやりとりが加わると、よりいっそう明るみが増す――。







西奮闘雨嵐







「おはよう」
「はよ。手伝わして悪かったな」

奈留は朝練を終えて水道でタオルを濡らしている忍足と会った。
マネージャーではないが、いつも友達に付き合って部活に顔を出す身。
いい具合に距離を置く、空気の読める性質である。
彼は彼女との関係が妙に心地良く感じていた。

「そや、S―1GP予選通過おめでと」

話題がなくて目をそらしたわけではなかった。
密かな想い人の笑顔を直視できず、照れが生じたのだ。
全身が日陰に隠れているため、髪の艶は暗くとも、揺れ動く数本は女らしさをかもし出す。
ドジさえ克服すれば、と嘆く者も少数いるとの噂だ。
予選に通過したのは自分も同様だが、忍足の脳にも奈留以外の名は一つもない。
会話が続かず焦っていた時、独特の足音を立てて男が現れる。

「おった」

何を考えているのやら、忍足の隣へ近づき止まる。
下駄履き人間・千歳と呼ばれる(誰も呼んでいない)放浪少年だ。
並べば女子が目の保養に喜びそうな二人。
千歳も水道を使うと思ってよけた奈留は石につまずいた。

「岩崎さん。謙也連れてってよかと?」
「もういいよ」

“もう”

笑いながらであっても、その言葉に含まれる意義は「用なし」同然。
連れ去られる最中、がくっと肩を落とす様が晒した本心に千歳は興味を持った。

「俺は邪魔ばしに来たとじゃなかよ」
「明らかに妨害行為やろ」

からかいたい。
なかばノリノリで別れさせた後、部室に乗り込む。
窓が開けっぱなしでも充分暑いとわかる室内に部員の姿は見当たらず、無人状態だった。
千歳は手招きして忍足をパイプ椅子へ誘導する。
何かを企んでいるに違いない呼びかけに、忍足は鋭い視線を向け、応じまいという姿勢を貫く。
対して千歳が破顔一笑、親指を立てて言い放った。

「奈留ば本気でおとすなら男見せんといかんばい」

うっかり椅子から落ちてしまい、急いで元通りに座り直す忍足。

「と、友達ではありたいけど好きやないし!」
「ばればれたい」

幾度も伝える機会はあった。
まだ言えずにいるのは、友達のまま仲良くしていたいから。
気持ちをすべてぶつけた先が、不安だらけで怖いから。





To be continued.
20080727

[次#]

1/39ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!