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他人なので
昨晩満足に眠れず、梨沙は朝からあくび続き。
この世界に入ると決めた時の勢いはどこに消えたのやら。
後悔が後悔を呼ぶ葛藤と戦う。
とぼとぼと一人歩く途中、そわそわした土方に出くわした。

「お、お仕事は」
「今日はオフだ」

煙草の煙を空気中に泳がせ、きっぱり答えた。

「暇か?」
「洗濯が終わったら暇です」
「なら俺の部屋に来いよ。今すぐな」

突然の誘いに断る理由が見つからず、梨沙は頷く。
嫌な予感はするが、気を紛らわす場になるかもという予想に賭けて。

「よし、マヨネーズを説く会を始めるぞ」

見事に当たった。
昨日も足を運んだ土方の部屋で、実はあまり好きではないマヨネーズがまつられている。
ノリノリ状態の相手に気が引けるが、乗り切る術はマヨネーズ話に付き合うことのみだ。

「お前、マヨネーズをどう数えてる」
「一マヨ、二マヨ、三マヨって感じに」
「それも悪くねェが呼び方は普通でいい」
「わかりました」

何がわかったか疑問だ。

「じゃ、マヨネーズの出し方。実技に入るぞ」

机の下からマヨネーズが出てきて、彼はそれを皿に盛る。
手品かと思ってしまうほど速い動きでマヨネーズの海が生まれた。
その上に今度は梨沙発の控えめなマヨネーズがかけられる。
土台はあらかじめ用意されていたカレーライス。

「大間違いだ! 範囲は食い物が隠れるまで! 高さは腕を伸ばして頭上から! それで初めてかけるんだ」

だが逆に熱血的指導を受けるはめに。
開きすぎた瞳孔が恐怖感を増大させた。
マヨラー直伝の盛り方矯正の末、ひと通り合格点に達してへばる梨沙。

「ステップ三はお前自身の訓練だ」

次は人見知りを直す訓練に付き合える奴を探すらしい。
そうすれば精神的に余裕を持って過ごせる、との考えがあった。
瞬く間に屯所中に広まる執拗なまでの面倒見っぷり。
忠実に従う他なかった。
断ろうものなら逆ギレして隊士を斬ってしまいそうな空気もできあがっている。

「この先困るとかそんなのほんと、ほんっと大丈夫ですから」
「同じくマヨネーズを愛する奴、とても他人とは思えねェ」

女中を引きずる者とマヨネーズ愛好家に引きずられる者。
何度も繰り返し単語が飛び交う。

「他人なので! マヨネーズに愛なんて注ぐより、あなたの中枢神経をマヨネーズで埋め尽くしてやりますよ」
「そりゃ楽しみなこった。さっそく誰か捕まえに行くぞ」

必死に振り絞った脅し文句も声の小ささで水の泡と化した。
すれ違う女中は、ひそひそと不満げな様子で口を動かす。
陰口のオンパレードを横目で確認し、あまりの多さに肩を落としつつ土方の後に続く。

「おおトシ! その子が噂の梨沙ちゃんか」

玄関近くの廊下に男が立っていた。
局長である近藤が興味津々に話しかけてくる。

(神様の救いの手が伸びた)





To be continued.
20080408

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