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会員の証
目で殺される。
瞬時にそう思った。
今までの出来事が走馬灯のように駆け巡る。
もう少し明るくなれた後で死にたかった。
覚悟を決めながら悔いる。

「お前マヨネーズの匂いがすんだけど」
「は、い?」

マヨネーズ発言に反応して開いた口をしまった、と塞いだ。

「もしかしてマヨネーズ好きなのか」
「マ、ヨネーズは好きです」
「マ、ヨネーズじゃねェ、マヨネーズだ!」
「はい! マヨネーズは好きです!」

発声練習のごとく互いの声がだんだん大きくなる。
話が合うと踏んだ男は梨沙の肩を喜んで叩いた。
何が起きているか理解できなくて怖いが、マヨネーズの話題ならば話せるかもしれない。
そう感じて彼女は言葉を探した。
迫り来る別の足音に気づくまでは。

「誰かァ。土方さんが女連れ込んで、ふらちな夜を迎えようとしてやすぜィ。そのまま体力衰えて自粛しろ」

この毒づいた言葉がすべてを壊す。
梨沙は窓に射し込む逆光に背を照らされた影が男だと予想した。
声でわかるだろという突っ込みはなしに、体格的にそう見え実際当たっていた。
出ていくはずの自分を止めた男を土方と呼ぶ。
冷やかす彼の言い分は、あながち間違ってはいない。
布団が敷かれた室内で男が女の肩を掴む。
現在、夜の九時を過ぎたところ。
少しも間違ってはいない。

「違う! これはマヨネーズを説く会の集会だ」
「二人しかいやせんぜ」
「総悟。ふざけてっと飯抜きにするぞ」
「うるせェ狼」
「てめっ、潰す!」

反論むなしく男を追いかけていく土方。
どうしていいかわからず置いてきぼりを食らう。
仕事に戻ろうかと考えていた時、建物が崩れるような音が聞こえた。
逃げなければ……彼女の危険信号はそれだけを選ばせようとしている。
爆発が起きた際に鳴る緊急非常ベルは作動しておらず、急ぐ必要はないが悪い予感に押されたのだ。
それから疲れた様子で体や服、髪もボロボロな土方が戻ってくる。
心配した梨沙が寄ると、平気な顔でふっと笑う。
そんな姿で笑われても困る。
梨沙は心に小さくつっこんだ。

「中断しちまったな。お前、名前は」
「え……」
「名前言えっつってんだよ」
「(怖い……)藍森梨沙です」

緊張のあまり、誰とも話さず過ごそうと最初は思っていた。
だが消極的な考えが変わり、はっきりと名前を言えた。
この進歩はかなり大きい。

「じゃあ梨沙。同じくマヨネーズに愛を注ぐメンバーとして、これをやる」
「マヨ……」
「それが会員の証だ。ちゃんと持っとけよ」

大、中、小。
それぞれのサイズのマヨネーズを渡される。
着物に隠し持っていたようで妙に生ぬるい。
愛を注ぐつもりはまったくないのに。
やはり関わらずにいきたいと思い、部屋を後にした。

(晴れてメンバーの一員に)





To be continued.
20080120

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