[携帯モード] [URL送信]
プロローグ
ここ真選組屯所で働く女中に新たな労力が加わった。
雇われた者の名は藍森梨沙という。
初めて経験する仕事に戸惑いっぱなしの彼女には、些細な問題点があった。
順序や内容など、この仕事は覚えることが多いため強張っていく表情。
誰とも関わらず生きたい思いが、さらに恥ずかしがり屋な性格を露呈した。
屯所内で隊士とすれ違うと、顔を伏せて無言を通すのである。

「もっと柔らかい心で接しなさい」
「はい」

性格というものは一朝一夕ではなかなか変えられないと言われる。
ベテランの女中に叱られ続けて病む寸前まで心は縮む。
自分でも精神が弱い奴だと変な部分を自負していた。
夜になり、寝具の用意をするべく各部屋へ向かう。
回るのは合計六部屋。
人がいようといまいと、決して手を抜かない。
梨沙のポリシーだ。

「失礼します」

最後の部屋に着き、緊張しつつも襖の戸を開く。
無人だったため、安心して布団を敷いた。
机には山積みの書類が置かれている。
真選組自体の仕事は彼女もよく知らない。
裏方としてひっそり働きたい希望はあるが少し関わりたくもある。
とりあえず倒れそうな書類の山をましに並べてみようと、震える手を伸ばす。

「触んな」

後ろから声がかかり、驚いた梨沙の体は固まった。
書類を気に留めたせいで会ってしまうとは運が悪い。
着物越しに足をぎゅっと掴み、反省する。
相手も鬱陶しいはずだ。
なんせ私物を勝手に扱う奴が目の前にいる。
足音が背後に迫った時、勇気を出して「失礼しました」と伏し目がちに言った。
そそくさと立ち去るつもりで、見えない人物の右側を横切ろうと歩く。
が、左手首を軽く掴まれて小さな作戦が終わる。

「こっち向け」

怖がっているのが丸わかり、と見破った声色で相手は冷静に命じる。
しばらく黙り込む両者。
自分の手首を離さない強い力に逆らえず、先に梨沙が顔を上げた。
そこには煙草を吸いながら突き刺すように見てくる男。
気を失う一歩手前で踏みとどまる梨沙。

(神様、助けてください)





To be continued.
20081215

[次#]

1/5ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!