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キー攻撃
帰る時間も方向もぴったり合った。
街がせわしく映る夜気。
先ほどまで部活の仲間がいた集団は、今では二人に減って穏やかだ。

「先輩」
「ん?」

信号機が赤を表示した。
動き出す車はどんどん加速していき、消え急ぐ。
財前の呼びかけに平たく返事をする翠。
わりと小さな交差点に行動の自由を奪われ、その間対話でつなごうとする。

「俺、言わなあかんことがありますわ。部室で自転車の鍵無くしたって騒いどったやろ?」

それが原因となり、翠は歩いて帰っている。
数十分の辛抱だが、足に力を入れづらくなってきた。
懸命に探す手伝いをさせたみんなも「疲れた」と伸びるくらいだ。
もはや地球上には無いかもしれない。

「まだ見つからなくてね」
「これやんな」

そっと鞄の中から取り出し見せた物。
アクセサリーか何かだと思いつつ、目で形を捉える。
普通の鍵がそこにあった。

「違うよ。私の、鈴付けてるし」

青に変わる信号が赤と役目を交代する。
ここで横断歩道の出番。
彼女は真実かからかいか、騙そうとしてもすぐ分かる。
なんせお気に入りの鍵だからだ。
財前は残念がり、口を尖らせた。

「引っかかってくれてええのに」
「光がいっつもおちょくるおかげで少しは警戒するようになりました」

早々と渡り終えて進む速度を遅らせる。
車のライトや街明かり。
すべては夜に染まって輝く。
すると、前を歩く財前がいきなりしゃがみ込んだ。
地面に物が落ちる音も聞こえた。
拾い上げた手に掴んでいるのは……。

「それ!」

まさしく鈴付きの鍵。
見たところ隠し持っていた線が強く、問い詰めたい気分の所有者。
しかし下手に動けない。
まずは要求を仕掛けるのが財前流だ。
飲める範囲なら従う心構えはできている。

「返す代わりに俺んち来ません?」
「来ません」

良くない予感が当たり、翠は即答で断った。
なんと質の悪い男だ。
門限さえ破れない家庭の事情に付け込む。
一匹の猫が路地裏から現れ、覗く険悪ムード。
よっぽど危険なのか、道に出ていきもしない。

「拒否ったら返されへんで、先輩」

歩幅をぐんぐん広げ怒る姿に、一応釘を刺しておいた。

「新しい鍵買うからいいっ!」

どこまでも意地っ張りな姿勢は明日も貫く。





END.
20081115

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あきゅろす。
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