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素直なマスコット
友達と近県の遊園地に行く約束をした。
待ち合わせは八時と早く、荷物は昨夜準備しておいた。
帽子を被ってリュックを背負い、遠足気分で歩く。
駅に着けば自分と同じノリの友達がいるから恥ずかしくない。

「んな格好でどこ行くんだよ」

なのに同級生にばったり会うと恥を覚える。
彼の名は南といって、小学校以降仲良くなった男友達だ。
部活を引退して暇な時間が急激に増えた。
本人が数日前、そう漏らしていた。

「あ、はは。山登りに出掛けてくるね」
「お前なぁ、空見ろよ。あの雨雲」

南の家で南に会う。
ごく普通の成り行きを起こした二人。
冗談を言った後、私はリュックの中で震える携帯に気づく。
雨雲が目的地方向にあろうが必ず行かなければならない。
折り畳んだ携帯を開いて見る。

「翠?」

本文を衝撃的な報告で埋めたお気楽メールの内容が理解できず固まった私に、南はこわごわたずねる。
はっとして、家の前で突っ立つ南を巻き込んだ。

「どうしよ。友達に急用あり」
「もっとつないで話せ」
「だから友達に急用ができて、なんと飛行機で外国へ旅立っちゃった」
「ほんと急だなそれは!」

急だよ本当に。
思いきり動ける服装でいる自分は今、何のために存在するか問いたい。
投げやりな素振りが伝わらないよう心の中で唸る。

「家族にお土産買って帰るとか言った私の口をどうぞ恨んで」

南の両肩を掴み、ぐらぐら揺らす。
遊園地で回るコースも決めた。
新幹線で眠る用意も万全のはずだった。
友達抜きで行くおもしろみの無い選択は控えたい。
なんだか一人で行ってしまうと、周りとの温度差に気後れする奴になりそうだ。

「まず落ち着け」

私の手を肩から離す。
道を通るたび人々がじーっと見ていく様子に気が散ったらしく照れていた。
あれは、はたから見れば喧嘩に発展した恋人同士の口論だ。
どうせなら、と私ごと家に入れて隠す南。
そして部屋に上がるか聞かれる。

「途中で火星に行くから帰れとか言わない?」
「言うか。何で規模でかくしてんだ」

幾度か立った経験のある床を久しい足で踏む。
居間が近くなると、「母さん寝てるから静かに」と注意を受けた。
南の部屋に着き、以前よりも緊張した面持ちで中に入る。

「いつ来ても地味だね」

気を紛らわすには話題を欠かない彼の自室。

「翠のは地味じゃないのか」
「物置いたら狭いがために散らかるよ」

部屋が広いと余計寂しく映る。
せめて掃除の障害にならないマスコットくらいはあってもいいのに。
私はうろうろ歩き回り、一人で考える。
ちょうど机付近に差しかかった足がぴたっと止まった。
小学生時代、お菓子のおまけに付いているマスコットを南にあげた記憶がある。
それとまったく同じ物が机を……。
妙に笑いが込み上げてきて噴き出す。
南は私がマスコットを見つけたと知ると、そっぽを向いた。

「かっ飾る物が無くて置いただけだぜ」

焦りを隠しきれず、どもり気味で弁解する。
男の心理はよく分からない。
地味を好む印象があったが、ごちゃごちゃ飾っていても別にいいのか。

「今度どこか遊び行こ!」
「急だな」
「何か買ってこの部屋に飾ろうよ。例えば遊園地行ってさ」

とっくに捨てたと信じ込んで忘れ去っていたマスコットに目をやる。

「奢りでよろしく」

またここに来た時は、何らかの形で飾りが増えているだろう。
振り返った素直な顔が答え。





END.
20080513

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