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真面目な人
掃除当番で一同廊下に固まった。
ほうきか雑巾か、じゃんけんで勝った者が自分の好きなほうを選ぶという方法に決め、さっそく始める。

「じゃんけんぽん」

ほうきと雑巾が次々減っていく。
私の狙いは言わずもがな、ずっと立っていられるほうきだ。
しゃがんで長い廊下を突き進む姿は晒したくない。
腕や足が倍疲れるし、勢い余ってでんぐり返りする恐れがある。
とにかく気合いだ気合い。
これを乗り切った後、私の手に握られているのはほうきだ、とイメージトレーニングを交える。
そして、最終的に負け続けた鳳くんとの一騎打ちを迎えた。
爽やかな表情は余裕からくるものなのか、それとも今晩のおかずを想像しうきうきしているのか。
読めない。
まったく読めない。
あわよくば私もお邪魔させてほしいくらいだ。

「張松さん、いいかな」
「あ、うん」
「じゃんけんぽん!」

握り締めた拳を出して瞼を閉じる。
結果は鳳くんが今目の当たりにした。
あいこならチャンスは広がると思ったが、この間を考えるに勝負はついたようだ。
重い顔を上げた途端、前であれが揺れる。

「雑巾よろしくね」

負けた。
私はむなしく突っ立ち、どっと滲み出る悔しさを抑えるのが精一杯だった。

「もしかしてほうきが良かった?」
「全然。こっちの方が好きだし」
「じゃんけんの時、雑巾ばっかり見てたね。よっぽど好きなんだ」

雑巾に恋い焦がれる女。
鳳くんにはそう見えるだろうな、と思いながら掃除に取り掛かる。
水道で濡らした雑巾を絞り、窓の向こうへ渇いた笑いをぶつけてみた。

(よし、やるぞ)

いよいよ自分の役目。
気持ちの切り替えが済んだところで位置につく。
床と両手で雑巾を挟み、スタートの構えからいざお掃除タイム突入……したはずだったのだが。

「だっ大丈夫!?」

盛大にこけてしまった。
それもそのはず、周りのみんなはモップを持ち廊下に出ているのである。

「お、鳳くん、雑巾なんて一人も持ってないよ?」
「だって張松さん……この学校の生徒じゃないだろ」

冷めた言い方にぞくっとして再度みんなを見ると……。

「どんな顔してたと思う?」
「今のクラス全員の顔見てみなよ」

行儀良く席に着き、ポカーンとしていた。
実は今日見た夢を友達の長太郎に話す目的で来たら、内容がくだらないのに濃くて話が長引いた。
ちょうど昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。

「教室帰りまーす。どうも失礼しました」
「あ、翠」
「続き聞きたい?」
「いや、俺も雑巾好きだって伝えたくて」

なんだか、雑巾という単語を連呼しすぎたからか、私が告白された気分になる。
真面目に感想を述べてくれる長太郎は、やっぱりいい奴だ。





END.
20090514

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