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ボンボンちょこれぇと
甘い拍動
先輩以上恋人未満の人とキスしちゃった場合、どうすればいいのだろう。


「………」


午前中最後の授業は移動教室なため、教科書や諸々を抱え廊下を一人歩く。最近じゃあ俺が篠先輩と知り合いだと全校生徒に知れ渡っているおかげでほとんど友達と言えるクラスメートはいない。
離れていったみんなを責める気持ちは一切ないが、やはり篠先輩の中身を知ってしまうと残念な思いは拭えないし、そんな状況に気付いているのか篠先輩のチームの人たちは良くしてくれている。
案外話してみれば、見た目とちょっとした思考回路が派手というかやんちゃというか、そんな感じ。時々度肝を抜くような言動はあるけど、それ以外はみんな大っぴらで親しみやすい。


だから最近じゃ俺もちょっとずつ慣れ始めてきたんだけど。あぁ…どうしよう。


あれよあれよと流されて篠先輩とキスしたのは三日前。抵抗らしい抵抗もせず、ただ口付けを享受したあの時の自分が幾度も脳裏をよぎり、その度頭を抱え奇声を上げるという一連の現象に悩まされている。

わかってる。わかってるよ、俺だって。
あの時の篠先輩は確かに普段の余裕っていうかいつもの落ち着きがなかったけど逃げられないほどのものじゃなかった。
なのに俺はされるがままキスしたよ……!!
正直めちゃくちゃ恥ずかしかったけどそれより気持ち良さの方が上回ったさ!俺のバカやろう!!


「はあ……」


こんな状態じゃ篠先輩と会える訳もなく、俺は何かと理由をつけて恒例と化しつつある昼食会を断っている。大人数で会うのさえ避けているんだ。もしあの空き教室で二人きりになんてなった日には絶対喋れっこない。うん、これだけは断言出来るよ。俺は、絶っっ対篠先輩と喋れない。


だが、このままでいいはずもない。このままでいられるとも思わない。どうにかしなくちゃ、と考えはするものの妙案は一向に思い付かない。低脳な自分が恨めしくなってくる。

無い知恵を捻り出そうとうんうん頭を悩ませながら、閑散とした廊下をゆっくり歩く。目的地の教室は普段まったく使われていない場所のせいで生徒の姿はない。ほとんどのクラスメートはとっくに教室で騒いでいるのだろう。

少し急ぐか、ぼんやり考えを巡らせ足を早めて角を曲がった瞬間に、いきなり大きな壁にぶち当たった。


「いっ…!!」


思い切り顔をぶつけてしまい、痛みで瞼を閉じた。ばさばさっと教科書や筆箱が落ち、リノリウム特有の反響音が広がる。


「悪ぃ、大丈夫か?」


頭上から声が降ってきてぶつかったのが人だとわかり、慌てて顔を上げ謝罪しようと口を開いたんだけど。


「…っはい、こっちこそすみませ……!?」


「!…星じゃねぇか」


そこにいたのは今正に思い浮かべていた張本人、篠先輩。あといつもお昼を一緒にする二人もいた。突然のことに軽く恐慌状態に陥った俺は口をぱくぱく動かすが漏れるのは空気だけ。


「おー、ほんとだ」


「そういやあ相原、ここ三日位見なかったけどなんかあったの?」


篠先輩の後ろから声をかけられ、更に三日という単語にこれでもかと焦ってしまった俺は一瞬にしてあの日の出来事を思い出してしまう。
篠先輩に抱きしめられて、すべてを溶かすようなキスに翻弄されながら、簡単に身体を委ねた自分を。


「あ…っ、う…!」


「…星?」


「そ、っ、の……っご、ごめんなさいいいいぃぃぃ!!」


「はっ!?ちょ、…星っ!?」


全身が発火したみたいに、ぶわあっと紅潮したのが自分でもわかってしまい余計に羞恥で居たたまれなかった俺は回れ右してその場から逃げた。
後ろから篠先輩の声がしたけど振り切るように走りながら、落としたままの教科書や筆箱が一瞬頭をよぎったけれどそれさえ打ち消して走り続ける。

あの時、突然抱きしめられキスされた時。
本当のことを言うと凄く驚いたけれど、同じ位どきどきしたんだ。キスされても全然嫌じゃなかった。それどころか気持ち良すぎて怖くなったほどで。
キスの合間に初めて囁かれた告白も甘い痺れにしかならなかったとか。



「ーっもう決定的じゃんか…!!!」


走りながら吐き出した声は自分で聞いてもどこか甘さを含んでいて誤魔化しようがないなんて。


一体いつから、俺はこんな感情を持っていたんだろう。
自分でも知らない内に育っていた想いは明確な意味と形を成している。



…俺、篠先輩が好きなんだ。









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あきゅろす。
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