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ボンボンちょこれぇと
君の宝物ならば
誘われてツーリングに行った日。


篠先輩の友達と騒がしくご飯を食べた時、流れでバイクの話になった。俺はほとんどついていけなかったけれど、その場にいたメンバーみんなはかなりバイクが好きみたいですごく盛り上がっていた。


俺はただ初めて聞く話に相づちを打つのに必死でぽんぽん飛び出す専門用語にハテナマークを浮かべていたんだけど。


そんな戸惑っている俺の頭を目の前に座るく篠先輩はくしゃくしゃ撫でて笑った。


『わりぃな。こいつらバイク馬鹿だからつい周りのこと忘れちまうんだよ』



『あ、だ、大丈夫です!初めて聞くことばっかりだから、新鮮で楽しいです…』



『…そっか。聞きてぇことあんなら遠慮すんなよ?』



笑いかけてくれる篠先輩の表情がなんだか嬉しそうに見えて、俺は気になった事を早速質問してみる。



『じゃあ…篠先輩もバイク、好きなんですか?』



ちょっと小声になったのは気にしない。
踏み込んだ質問をするのはこれが初めてだったから、変に緊張したんだよね。


俺の問いかけに少し目を見開き、次いで破顔した篠先輩は頷いた。
昔からバイクが好きで、工場や知り合いのバイク屋に押しかけては修理や改造するのを見学したり手伝わせてもらっていたらしい。そうする内にいつか自分だけのバイクが欲しいと思うようになったんだとか。



『中学からバイトしまくって、ようやくあれを手に入れたんだよ』



あれ、というのが今日俺が乗せてもらったバイクだとすぐわかる。嬉しそうに瞳を細め外を見やる篠先輩。



『あん時は、言い表せねーくらい嬉しかったよ……って、ガキっぽいか』



『全然!そんなことないです!』



勢いよくぶんぶん首を横に振る。
バイクの話をする篠先輩は、本当に大切な物なんだなって思わせるくらい優しい顔をしていたから。



バイクは篠先輩の宝物なんだって思った。


それくらい夢中になれる好きなものがあるのは素敵なことだし、正直羨ましかった。俺にはそういう譲れないってものないし。


篠先輩の気持ちも、そんな人に大切にされているバイクも羨ましかった。



『篠先輩のバイクは幸せですね』



『え…、』



『そんなに大切に思われて、嬉しくない訳ないですもん』



へらっと笑ってそう口にすれば、篠先輩は片手で口元を覆う。視線を逸らされた、と思った時には周りからわっ!と野次が飛んできた。



『ひゅー!篠さん、嬉しいこと言われちゃいましたねー』



『あれは殺し文句っしょ。ヤバいわー相原』



『おっ前良い奴だな、相原!』



『え?え?な、なんか、変なこと言いました、俺っ?』



突然背中をバンバン叩かれたり、笑いかけられてびくびくしてしまう。つい助けを求め、向かいに座っている篠先輩を見る。

すると目元をほのかに赤く染めて、篠先輩は苦笑する。くしゃ、また頭を撫でられる。


『…気にすんな。みんな嬉しいだけだから』




もう一度ハテナマークを頭に浮かべ、テンションの上がったみんなの話を聞いていた。



それは、楽しいと、呼べる時間だった。












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