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ボンボンちょこれぇと
2
恐怖で今にも泣き喚きそうな俺と、不良の中の不良、篠修平と黒田尚に見つめられること数分。


沈黙を破ったのは篠修平だった。



「あー……泣くなって。星をどうこうしようなんて思ってねぇから」



「…っ!!」



「大丈夫だから。な?」



優しい声で篠修平は喋ると、まるで壊れ物を扱うかのように俺を引き寄せ背中を撫でた。過剰に反応した身体を篠修平は無視して俺をより強く引き寄せる。



肩口に頭を乗せる格好で、背中や頭を何度も何度も撫でられる。あまりに柔らかく暖かい仕草に、恐怖で緊張していた身体から力が抜けていく。




状況は未だによく分からないが、優しいとしか言えない篠修平の言動に冷え切っていた頭と身体は次第に熱を取り戻していく。



「…うっ…!…ぅう、っひ…」




安堵と共に涙が溢れ、俺は子供みたいに泣いて大きな身体に縋りつく。すると、安心させるようにかぎゅっと抱きしめる力が強くなった。




「よしよし」




耳元で聞こえた子供扱いする声さえ優しくて甘く感じた。



「…おい。俺を忘れんじゃねえ」



さっきまで漂っていた甘ったるい空気は黒田尚の一言で吹き飛んでしまったのだった。








結局、屋上はいつ人が来るか分からないとのことで、校舎内に移動した。


タイミング良くまだ授業中だっため誰にも見つからず目的地まで行く事が出来た。
もしこれが休み時間とかだったら…考えただけで空恐ろしい。

好奇と同情が入り混じった瞳で見られるに決まっている。それかまるで理解出来ないという瞳。



俺もこんな平凡な奴と学校一の不良二人が一緒に歩いてたら信じられないし。
二人の後ろをついて歩きながら、俺はそっと溜め息をついた。



二人が入っていった場所はなんと、教科準備室だった。俺は開いた扉の前に突っ立って中に入れない。何故ならここは誰もが知っている不良の溜まり場の一つだからだ。



こ、こんなっ、不良の巣窟に入るのか…!?


俺が動揺している中、室内では二人の喋り声が聞こえる。



「よう、今日はこれだけか?」



「あ、篠さん、黒田さんちわーっす」



「今んとこは俺ら六人だけっすね」



「今からここ使うからちょっと出てろ」



「了解っす」



篠の言葉に思い思いくつろいでいた六人は素早くその場を片し、立ち上がった。その姿を確認してから篠は星を呼んだ。



「星、入っていいぞ」



「え!あ、はいっ」



いきなり名前を呼ばれ驚きのあまり声が裏返る。慌てて室内へ入るとばっちり今から部屋を出ようとしていた不良六人組と目があった。



う、うわあああ!不良!不良が六人も俺を見てるー!



すぐさま固まってしまった俺に気付き、篠修平−もう篠先輩でいいや、が俺の手を優しく掴んだ。ふんわり包まれた熱にはっとして篠先輩を見つめる。



「星、大丈夫か?」




「…っえ、と……はい…」




向けられる優しい笑みに顔が熱い。
怖いはずなのに、なぜか篠先輩への恐怖が薄れていて戸惑う。学ランといい、さっき抱きしめてくれた時といい、見た目とは正反対の優しさを感じる。



掴まれた手が熱い。
恥ずかしさで俯く俺をそっと引っ張り部屋へ連れて行く。


そんな俺たちを不思議そうに見つつも不良六人組は部屋から出て行き、ここには俺と篠先輩、それと黒田先輩の三人になった。




ソファーに座った俺の横に篠先輩、向かいに黒田先輩という形で落ち着いた所で早速本題に入る。




「それで、屋上のあれを説明してもらおうか、修平」




「説明って言うほど大袈裟なことでもねぇけど…」




篠先輩は頭を掻きつつ事の顛末を説明した。一通り聞いた俺と黒田先輩はお互い別々のリアクションを浮かべる。





「なんだよそれ…聞いた俺が馬鹿だった。ああ、時間無駄にしちまったな」




「んだと、尚。てめぇから聞きたいつったんだろうが」




「ああ?普通はもう少し面白いこと想像するじゃねえかよ」


篠先輩と黒田先輩の言い合いも聞こえないくらい俺は両手で顔を隠し悶絶していた。


なんてことを、なんてことを俺はやってしまったんだ!!恥ずかしい怖い恥ずかしい!



うおあぁと奇声を発しつつ、涙ぐんでいた俺に気が付いた篠先輩が頭を撫でる。




「そんな気にすんなって。つか可愛かったし」



「……へ?」



今なんて言った?え?俺が可愛い?



可愛いの言葉に反応出来ず凝視してしまうが、特になんの感情も浮かべていない篠先輩。戸惑いつつそろそろと口を開く。



「か、可愛いって…ど、どういう意味、なんですか…?」



「どういう意味って、」




不思議そうに俺を見つめた篠先輩は苦笑して、腕を俺の腰に回してきた。その仕草がなんとも自然で俺は目をぱちくりさせて篠先輩を見上げるしかない。




え、ちょ、なんで抱き寄せられてんの!?



しかも距離が近い!つか近付いてきてるのか!?



パニック状態の俺を置いて、篠先輩はゆっくり顔を近付けてくる。美形な顔が近付いてくる状況に俺は咄嗟に目蓋を力一杯閉じた。



ちゅっ、音と共に柔らかい感触を額に感じ、驚いて目蓋を開くと篠先輩は甘い笑顔を浮かべている。




「こういう意味に決まってんだろ?」



「っっ!!!!?」



「星が気に入った。これからよろしくな」



爽やかに笑う篠先輩は女の子なら誰もが落ちそうなほどかっこよかった。俺は額を押さえて赤く染まる顔でぱくぱく口を開くが何も言えない。




「っ…っ…!!!」



「あー…可愛い」




また篠先輩に抱き寄せられて腕の中に閉じ込められる。俺は何故だかバクバクしてる心臓をどうすることも出来なかった。





そんなふわふわ甘い雰囲気に似つかわしくない低い声が響いた。





「……なあ、修平。お前俺を忘れていちゃついてんじゃねぇよボケ」





やっぱり、甘ーい空気を払拭してくれたのは黒田先輩でした。









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