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ボンボンちょこれぇと
小さくて、大きな一歩
拍手文。篠視点。







まあ、なんというか。
こうなる気がしなかった訳じゃないけれど、ちょっと目を通すつもりだったバイク雑誌を、ああでもないこうでもないとバイク仲間と語り尽くしてしまった。
一緒に帰ろうと約束していた星が待っているであろういつもの教室に急げば、微かに聞こえる寝息にそっとソファーを覗く。予想通り、ソファーに丸まってすやすや寝顔を晒している星がそこにはいて、待たせてしまった申し訳なさに肩を落とした。

起こしてしまわないよう向かいのテーブルに腰掛け、殊更優しく髪を梳いていく。元々、小柄な身体を更に小さく丸めて眠る姿は庇護欲と愛らしさを感じさせる。待たせてしまったのは自分で、反省すべき所なのだがこんなに可愛らしい姿を見られるならそれも悪くないな、とつい考えてしまう。

あぁ…起こすのもったいねえなあ。
寝顔がこんな可愛いって反則だろ。起こすに起こせねえ。

どうしたらいいんだ、と俺が変な所で頭を抱えていれば、頭を撫でられる感触に目が覚めた星が唸る。

「ん、ぅー…篠、せんぱぃ…?」

「起きたか?ごめんな、長いこと待たせちまって」

まだ眠たいらしく、星はしきりに目元を手の平で擦る。無防備な仕草に心拍数が跳ねた。普段の忙しない姿を知っている分、ぼーっとした星はとにかく可愛くて堪らない。寝起きは頭が回らないのか、まだもぞもぞしている様子についむくむくっと邪な考えが浮かんでしまった。
少し位なら、いいよな?俺が星のこと好きだって知ってて、こんなに無防備な姿見せるのが悪いんだし。

などと、自分勝手な言い分を心の内で呟き、撫でていた指先を後頭部まで差し込んだ。

「…星、」


「ん…?…え、ぁ…」


差し込んだ指先でくしゅっと髪を緩く掴み、そのまま上体を倒す。ちゅっと、こめかみに口付けその流れで額や目蓋、目元を擦っていた手に唇を落としていく。星は突然のことに全く動きを見せず、されるがままだ。俺は気分良く口付けをいたる所にしていく。すると、ようやく反応を示し始めた星が恥ずかしそうに顔に当てていた手の平で俺の頬に触れる。弱々しくも顔を押し返す仕草に、余計煽られた俺はきっと厭らしい笑みを浮かべていることだろう。じっと瞳を見つめ、問いかける。


「星…俺とキスすんの嫌か?」


「っ!や、じゃ…なぃ…」


「ならいいだろ?…ほら、キスさせて」


「ぅー…」


眉をへたれさせ、ほっぺを真っ赤にしてどうしたらいいか迷っている星は言葉に出来ないほど可愛くて、今すぐにでも唇に噛みつきたくなる。けれど、怯えさせたくはない。後一押しだと髪を掴んでいる指先で襟足を擽れば、頬に添えられていた指がぴくっと震えた。


「っ…し、の…先輩っ…!」


「ん?どうした?」


「ず、る…ぃ…っ」


弱かった力が更に弱くなり、もう押し返す意味を成さない手の平に口付ける。


「俺はただ星とキスしてぇだけだ」


「ぁ…ん…っ!」


弱点を責めるのは必勝法の一つだろう。目の前に餌をぶら下げられて大人しくしていられるほど、俺は我慢強くもないし大人でもない。ようやく重ねた唇は異様に熱く、魅力的過ぎた。すぐさま舌を差し込み星のあらゆる場所を舐め尽くす。必死について来る星の拙い動きが余計興奮を煽っていくのを、こいつは知っているんだろうか。


「ぅ、んぁ…っ…ふ」


時折、漏れる声音のいやらしさに頭が沸騰していく。テーブルから腰を上げ、ゆっくりとソファーに乗り上げる自分を冷静な部分が止めに入る。これはまずい。理性と欲望の均衡が崩れかけ、けたたましい警鐘が鳴り響く。
これ以上続ければ、星がどんなに嫌がっても自分を止められないだろう。それだけは避けたい。泣かせたい訳じゃないのだから、と自分に言い聞かせ、名残惜しくも柔らかな唇を解放してやる。


「ん、ん…っ、ふぁっ…」


「はあっ…は、星…」


潤んだ瞳と互いの唾液で濡れた唇に、頭がぐらぐら煮立っていくが、すんでのところで上体を起こす。ヤバかった。冗談抜きに。今もぐるぐる熱のこもった身体をなんとか冷まそうと目元を手で覆う。


「…悪い。暴走した」


ため息混じりに謝る。
今までは、どんな時も余裕があった。なるべく星を怖がらせないように、不安にさせないように、と加減して星に触れることが出来ていたのに。危うくこのまま服を剥いで、至る所に印を残し、触れた場所がないほどに舐め、噛んで泣いても嫌がっても欲求を満たそうとしていた。そんな自分に嫌気がさす。
一人俯き、落ち込み始める俺に、星がソファーから起き上がる音と振動が伝わった。そちらを見る覚悟はなかったため、星がどんな表情かはわからない。が、俺は次の瞬間、固まった。

弱々しくも、可愛らしいリップ音と柔らかな感触が耳元に触れたからだ。


「え…」


勢い良く顔を上げる。呆然とした俺に星は顔を真っ赤にしながら、しどろもどろ言葉にならない声を上げる。


「あっ、ぅ…そ、の…っ」


微かに震えながらも、俺に何かを伝えようとしている姿は、先ほどの淫靡さを吹き飛ばす位愛らしかった。
黙ったままの俺に、星はとうとう焦りが頂点に達したのか、そのままタックルの勢いで抱きついてくる。


「おわっ!…星…?」


「その…っ、上手く、言えないですけどっ…篠先輩なら平気、です…!」


「!」


「ほんとに嫌なら、俺だってちゃんと暴れますし、本気で抵抗するから、篠先輩だけが落ち込む必要なんて、−−」


言い募る星の唇に触れるだけのキスをする。ぴたり、止まった星に微笑みかけ抱き締め返す。


「篠先輩……?」


ああ、本当にどうしてくれるんだ。可愛くて、愛しくて、胸がいっぱいになる。満たされる。

っとに、かなわねーな星には。


「ありがとな。…勝手に襲って勝手に落ち込んで、ごめん。すっげー嬉しいよ」


「い、いえ。大丈夫、です…」


抱き締め返してくれる腕に、嫌われた訳じゃないんだと安堵した。そっと星を見下ろせば、真っ赤に染まった耳が見えて、今まで感じたことのない感情で胸が満たされる。
きっと、これが幸せなんだろうな。俺は初めて知る暖かさに身を委ねた。旋毛にキスをして瞼を閉じる。星の香りと温もりを堪能していれば、下からぼそぼそ声がした。


「………もう少しだけ、」


「ん?」


「もう少しだけ…時間を下さい。…ちゃんと、答えを出したい…から…」


もう少しだけ、傍にいて下さい−−、星の真摯な言葉にカッと胸が熱くなる。嬉しさやら切なさやらが押し寄せてきて、ほんと、参る。俺をこんな、骨抜きにしてどうしたいんだよまったく。


「…ああ。傍にいる。星の傍に、ずっといるよ」


「はい…ありがとうございます」


互いに抱き締める力が増して、少し近付けた気がした。ゆっくりゆっくり、俺たちのペースで進んで行けたらいい。戸惑う日もあるだろう。怖くて怖じ気づく時もあるだろう。それでも、歩み寄る気持ちがあればきっと、なんとかなる。

いつの日か君に、俺を好きになってもらえたら。


これ以上の幸せはないんだろうと、そう思うから。

















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