7
ルーンの道場には、老人と青年と少年の三人がいた。
老人、ハウェルは苛々しながら貧乏揺すりをしていた。
青年、アレックスは苛々としている老人を宥めている。
少年、セリは憂鬱そうに座っていた。
「あんの、バカは何をやっているんだ!!」
「まあまあ、いつもの事じゃん先生」
「いつもの事だから怒っているのだー!!」
「兄ちゃん、今日も来ないつもりなのかなぁ……」
セリは窓から外を眺めながら呟いた。
この間は、もうサボらないって言っていたのにな。一体兄ちゃんはどこで何をやっているんだろう。
そう考えていたセリは、ふと、数日前に兄と交わした会話の内容を思い出した。
シャルは確かこう言っていた気がする。村を北から出て茂みの中を突き進んで行った所にあるひまわり畑にいると。
どうせ待ってたらいつ来るのかわからないし、とセリは立ち上がった。ハナからアレックスとハウェルには興味がなかった。
「セリ?どこ行くんだ」
「うん、兄ちゃんもいないし、ちょっと今日は外で日向ぼっこでもしてくるよ」
「うむ、あまり遠くへは行くなよ。この辺は危険だからな」
「大丈夫だよ先生。」
そう言ってセリは出て行った。
ハウェルは、セリが出て行った扉を心配そうに眺めていた。
「村から、離れなければいいのだがな。」
そう呟きながら。
シャルは、ヒマワリ畑の見える丘で寝そべっていた。
昨日シャルが心の中で誓った事など、シャル自身はすっかり忘れていた。
「い〜い天気だぁ〜」
シャルは、んーっと伸びをしながら言った。脳天気だった。基本的にやる気がなかった。
シャルの寝ている横には、木刀が転がっていた。律儀にも持ち歩いているのである。
「やっぱりこんな日は寝るに限るよな、うん。そうに決まってる。よし、寝よう」
シャルは目を瞑った。ものの5秒で眠りについた。
ところで、ヒマワリ畑には一匹の獣が忍び寄っていた。人を主に主食とする熊のような獣で、人の姿を求めて来たのだった。
獣は卓越した嗅覚を頼りに、人の姿を見つけた。丘の二本の木の下で無防備に熟睡している恰好の獲物がいるではないか!
獣は慎重に、且つ素早く丘で眠る人間に近付いた。人間は一向に起きる気配がない。
獣は「チョロいな…」と思ったに違いない。獣にそんな知能があるのかどうかは不明だが、まぁそれに近い感情を抱いただろう。
寝ている人間の側まで来た。相変わらず、あどけない寝顔で寝ている。ものの気配を察知する能力が皆無らしい。
獣は、長く鋭い爪を出し構えた。その爪は寝ている人間の喉笛を引き裂き、腸を抉り出し、心臓を突き刺すだろう。
獣は大きく振りかぶり、人間に襲いかかろうとした───
「んむぅ……」
獣の爪は深く地面に突き刺さった。
しかし寝ていた人間は、タイミング良く寝返りをうったおかげで無事である。
獣はもう一度、振りかぶって人間を殺そうとした。だが、人間は再び寝返りをうち、器用に避けたのだ。
獣が攻撃しようとするたびに、人間は器用に避ける。避けるたびに獣は再び攻撃をしようとする。
獣はいい加減にクタクタだった。こうなれば、最後の手段だった。
二本の長い腕を使った究極技。一度避けてももう一本の腕で確実に仕留める。これで奴は生きられまい。
獣の一発目が地面に突き刺さった。避けられた。そして、二発目が襲いかからんとした────
「うぅるせぇェェェェ!!!」
突然、人間の少年が叫び出し、拳を振り上げた。人間のパンチが獣の顔にモロに入った。
獣の体が、浮いた。
ドシャアッと、獣はヒマワリ畑に倒れ込んだ。獣はピクピクと痙攣していた。
「………ん?何だ?」
そしてシャルは目覚めた。未だに目はボーっとしていた。
自分がたった今獣に襲われていた事など知る由もなかった。
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