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シャル達の家は、道場から十分ほど歩いた場所にある小さな小さな家だった。シャル達が家に帰ると、少しふくよかな体格の女が一人、写真に向かい合い花を供えていた。
二人の母親であるマルクである。
「ただいま、母さん」
「ただいま」
2人が言うと、マルクは2人を振り返りにっこりと笑った。
「おかえりなさい。」
二人は写真の前に行き、手を合わせた。
写真には、マルクとある男が並んで映っていた。父親である。父親は、眩しい笑顔を見せていた。
「……母さん。明日は、父さんの誕生日なんだよね」
「ええ、そうよ。明日は、あの人の大好きな物をたくさん作って、お祝いしなくちゃね」
マルクが、明るい声でそう言った。
「なぁ、父さんの好きな物って、一体何なんだ?」
シャルがマルクに尋ねる。シャル達の父親は、セリが生まれるちょうど前に亡くなっていた。なので、シャルもセリも、父親の事は覚えていないし知らない。
「あの人は、お酒が大好きだったわ」
マルクが、懐かしむような口調でそう言う。お酒が大好きな男というとなんだか危険な感じがするが、まあともかく。
「じゃあ、オレが明日買ってくるよ」
「馬鹿言うなセリ、お前は未成年だろ。俺が買ってくるよ」
「本当?じゃあ、頼んだわよシャル。……さて、ご飯にしましょうか。今日は、シャルの好物のカレーよ」
マルクは台所からカレーが入った鍋を運んできた。鍋には、少なくとも20人分のカレーのルーが入っているように思える。
それを見たシャルは、ぱっと嬉しそうな表情を見せた。
「俺、母さんが作るカレー大好きなんだよな」
そう言ってシャルは、3枚の皿にそれぞれのカレーをよそった。1枚だけ異様に大きい皿があり、その皿にはこれでもかというほどカレーを盛っていた。1杯で3人分くらいはありそうだった。
シャルの分である。
「相変わらずよく食べるねー兄ちゃん」
「そうか?いただきまーす」
「………。
早っ、もう1杯食べ切っちゃったの!?」
「あ、セリのその肉でかいな。もーらい」
「あー!なんで奪うんだよ!兄ちゃんがよそったんだろ!?」
「あー、ほらほら。おかわりはまだいくらでもあるんだから喧嘩しないの!」
シャルとセリのやり取りを、マルクは微笑ましく見ていた。
こんなくだらない日常が、いつまでも続いたらいいな、とマルクは願った。何でもない事のようだが、そう願わずにはいられないのであった。
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