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 レインボーベル王国の王都ヴィッテの中央広場は、大勢の商人や観光客で賑わっていた。
 ヴィッテはレインボーベル王国三大都市と呼ばれる町の中でも最大規模で、世界最大の都市とも言われている。そのため、ヴィッテには毎日のように、世界中から観光客が集まっていた。


 そんなヴィッテの町の中央広場に、前触れもなく突然大きなサイレンの音が響き渡った。


《ヴィッテ北部2キロ圏内に、移動性高圧魔力物体確認!外にいる方々は、速やかに屋内に避難してください!》


 サイレンの音に続き、町中のスピーカーから、町民に注意を呼び掛けるアナウンスが流れる。突如として流れた警告に、町中が騒然とした。


「……おい、またか!一体今週に入って何度目だ!」

「外にいる者達は皆、どこかの建物に入れ!」


 ヴィッテの中央広場に店を出していた者達は一斉にシャッターを閉じる。そして、外にいたヴィッテの住民達は、一斉に近くの建物に逃げ込んだ。

 その様子を見て狼狽えているのは、エルミナ共和国やラインベルト帝国からやって来ている観光客達だ。


「……お、おい……一体何だって言うんだ?」

「魔物だよ!あんた達も、店の中に入りな!」

「な、なんだって!?」

「だが、まあヴィッテは大丈夫さ!レインボーベル王国にはね、王国直下の騎士団がいるんだよ!彼等があたし達を守ってくれるさ!」


 魔物が町を襲ってくるという現状の下でも、ヴィッテの民は誰一人として絶望してはいなかった。

 レインボーベル王国には、レインボーベル王国が誇る騎士団がいる。レインボーベル王国の民は、彼等に守られているのだ。














「中型のゴーレム3体……こんな所まで、ご苦労な事ですね」

「全くだ」


 町の外れに、2人の男と1人の女が立っていた。
 彼らが纏っている青い服の左胸にはレインボーベル王国の紋章が刻まれており、右胸には、「二」と書かれたバッジが煌めいている。

 3人の目の前には、数体のゴーレムがいた。3人で一番体格の大きな男が、敵の数を数えて口を開いた。


「敵は3体か……。一体ずつ片付けるぞ、ノエル、アルマ!頼んだぞ!」

「はい、副隊長!」

「力弱い民を守るのが、我等がレインボーベル王国騎士団の使命。悪いですがその命、いただきます」


 そう言って最初に動き出したのは、アルマと呼ばれた小柄な女団員だった。
 アルマは小刀を抜き出すと、ゴーレムに向かってダッと走り出した。


「ガアアアアア!!」


 アルマが小刀を構えて駆け寄ってくるのとほぼ同時に、ゴーレムが雄叫びを上げながら太い腕を振り回す。自分に対して殺気を向けられると凶暴化し暴れ出すのは、魔物の習性だった。

 女は怯むことなく、振り回された腕をかわした。そして、素早くゴーレムの背後に回り込む。
 突如視界から消えた女に、ゴーレムは狼狽えて辺りを見渡す。動きが鈍い上に知性が極めて低いゴーレムは、完全にアルマの姿を見失ってしまったようだ。


「えいっ!!」


 アルマは、ゴーレムの体の中心に見えている丸い物体を目掛けて小刀を突き立てた。ゴーレムの中心核で、ゴーレムの生命活動の中心となる部分だ。
 ゴーレムの核が、粉々に砕け散った。するとゴーレムは、鈍い叫び声を上げると、まるで支えを失ったかのようにその場に崩れ落ちた。核を失ったゴーレムは、ただの岩の塊だ。


「ガアアアアア!!」


 残った2体が、雄叫びを上げてアルマに襲い掛かろうとした。

 1体が、その剛腕でアルマを押し潰そうと腕を振り上げる。
 だが、ゴーレムの攻撃がアルマに届くことはなかった。


「“ウィンドブレイド”!!」


 ゴーレムの背後から、アルマとは別の団員の声が聞こえてきた。

 小柄な青年、ノエルが放った物だった。ノエルの周囲に緑色の魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣の中心から無数の風の刃が飛び出してゴーレムに襲い掛かった。
 ノエルが放った風の刃が、ゴーレムの核を貫いた。2体目のゴーレムも、1体目のゴーレムと同じように岩の塊となってその場に崩れ落ちた。

 残るは1体だ。目の前で倒れた2体の仲間達を目の当たりにしたゴーレムが、3人を押し潰そうとして腕を滅茶苦茶に振り回す。
 しかし、リーダーと呼ばれた大柄の男は臆することなく、ゴーレムの懐に入り込んだ。


「くらえ“岩砕拳”!!」


 男の拳が、ゴーレムの核に鋭く命中した。
 3体目のゴーレムは、悲鳴のような奇声を上げてその場に崩れ落ち、動かぬ岩と化したのだった。


「よし、任務完了……お前達、怪我はないか?」

「僕は特に問題ありません、副隊長!」

「私も、問題ありません」


 ノエルとアルマは、武器を収めながらリーダーの男の問い掛けに応えた。
 2人の返事を確認したリーダーは、辺りを見渡した。
 そして、バラバラになった岩の塊(ゴーレムだったモノ)の遥か後方に、怪我をして動けなくなっている3人のハンターの姿を確認した。


「おい、そこのあんた達。その怪我は……あのゴーレム達にやられたのか?」

「すまない、助かった……。あの、あんたは……?」

「俺はレインボーベル王国直属騎士団二番隊副隊長、第2小隊リーダーのダリスだ。こいつらは、俺と同じ第2小隊のノエルとアルマだ。
 ゴーレム達は俺達が退治したから、安心してくれ。それよりあんた達、歩けるか?」

「お、俺は大丈夫だが……その、仲間が……」


 ハンターの男が、仲間の男の1人を指した。
 その男は、頭から血を流して気絶していた。足が真っ赤に腫れ上がり、有り得ない方向に曲がっている。見るだけで痛々しい怪我に、もう1人の仲間は怪我した男を支えながら思わず目を逸らす。


「なるほど、わかった。ノエル、今すぐ救護班を手配してくれ。アルマは折れた足を動かさないように応急手当をしてくれ」

「はい、副隊長」

「了解しました」


 ダリスの指示を受けたノエルは、通信機で救護班に連絡を取った。アルマは、テキパキとした動作で応急手当を始めた。
 そしてリーダーのダリスは、残りの2人に向き直った。


「あんた達は、どこにも異常はないか?」

「ああ、俺達もちょっとやられちまったけど……かすり傷だ。そいつみたいな大きな怪我はしてないから、そいつを優先して助けてやってくれ」

「だが、今は何も異常がなくても後から症状が出てくる事もあるぜ。小さな異常でも感じたら、必ず報告をしてくれ」

「あ、ああ……」


 まるで動きや一連の流れをプログラムとして組み込まれた機械のようにテキパキと事務的に作業に当たる3人に、男達は思わず戸惑った。
 騎士団の者は皆、こういった事態に慣れていて、もはや何も感じない領域にまで達しているのだろうか。そんな不安さえ感じた。

 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。一通り応急手当を終えると、アルマは安心したように小さく溜め息を吐きながら言った。


「……貴方がたの命に別状がなくて、本当によかったです」


 クールな表情の中にどこか優しさを含んだその眼差しに、3人の男は思わず顔を真っ赤にして見惚れた。

 ───天使だ……

 男達は、アルマを見て一斉にそう思った。


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あきゅろす。
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