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「……クス、ねえアレン。予想以上に、彼は面白いよ」
レイアスは、面白い物を見つけた子供みたいな表情をしながら、アレンに問いかけた。……だが、当然アレンからの返事はない。アレンは、爆心地の中心で伸びたままである。
「………アレン」
レイアスは、反応を示さないアレンに面白くなさそうに唇を尖らせながら、アレンに歩み寄った。
そして、今だと言わんばかりに、アレンの眼鏡に手を伸ばした。
───が、レイアスの手が、アレンの眼鏡に触れる寸前に、地に伏せていたアレンの手がレイアスの腕をガッと掴んだ。
「だから眼鏡は駄目だって言ってるでしょ」
「……おはよう、アレン」
「……別におねんねしてません。地面に衝突する寸前に魔力結界を張ってなかったら死んでましたが……あの馬鹿力。
眼鏡は駄目ですってば。僕は目がすごく悪いんですよ。一瞬でも眼鏡を外して歪んだ視界で世界を見たら、一週間は頭痛と吐き気で寝込みます」
「あははは。アレンってまるでネタみたいな設定のキャラだよね」
「……そうやって世界を崩壊させるような発言もいい加減にしませんか」
レイアスの自由人過ぎる発言に、アレンが呆れたようにため息を吐いた。まあ、レイアスにどう注意してものれんに腕押しなのはわかっているのだが。
「……逃がしちゃいましたね。レムさんに叱られますよ」
「なに、100人も宛てがってアレンも宛てがった上で負けたんだ。俺は十分ベストを尽くしたんだからお咎めなしさ」
「真面目に捕える気、なかったくせに」
「狸寝入りしてたアレンに言われたくないね。……それにしてもさ、レムってばやっぱり嘘吐きだったね。いや、嘘じゃないのかもしれないけど」
レイアスは、懐から原星石を出して楽しそうに手の中で弄んだ。原星石は、何の反応も示していない黒色だった。
「アレンがラリアットくらう直前の事なんだけどさ。シャルくんの瞳が赤く変色したじゃないか」
「………」
アレンが、表情を曇らせた。肯定の意だろう。
「でさ、俺も何故かレムと同じ行動を取ったんだ。人間って不思議だよね、ある筈がないと思いつつも予想外な事が起きると、そのある筈のないことを疑うんだ」
「……で?何か面白い発見でも?」
「それまでエアリーちゃんにしか反応しなかった原星石が、赤く光ったんだ」
原星石をポンポンとお手玉のように投げて遊ぶレイアスとは対照的に、アレンの表情は険しくなった。
「そんな事が……」
「俺が嘘を吐いてるって言うのかい?」
「……いえ。でも、だったら尚更逃がさない方が良かったんじゃ」
「俺はレムみたいにサディストじゃないから嫌がる青少年を無理に拘束する気はないよ。
だけど断言する。シャルくんはいずれ、俺の元へ来るようになるよ。他の誰でもない、自分の意志でね。クク」
そう言ってレイアスは、まるで支配者のような笑みを浮かべた。
……なにがサディストじゃないだ。アレンは再び、呆れたような表情を見せた。
「さあアレン、ちょっと調べることができたから手伝ってくれるよね?」
「なんで勝手に決定してるんですか……まあ手伝いますけど。100人隊はどうします?」
アレンが、地面に転がっている100人隊を指差して言った。
「ああ、そいつらね。そうだね、また一からキッチリと教育し直さなきゃね。いくら寄せ集めだからって、これじゃあな。
でも俺は紳士だから、一度駄目だったからって見捨てたりしない。使うなら、ちゃんと使えるようになるまで再教育してから、全部使い潰すよ。その方がエコでしょ?」
そう言って笑うレイアスの表情は、実に愉快そうだった。
一度レイアスに使われたら、骨の髄までしゃぶり尽くされる。アレンは、倒れている男達を少しだけ哀れに思った。尤も、ほんの少しだけ思っただけだったが。
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