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レイアスに煽られ、強制的と言えどもやる気を出した男達は、シャルとエアリーによって次々と薙ぎ倒されていった。
「……やっぱり寄せ集めの100人じゃ駄目かぁ」
レイアスが、次々と蹴散らされていく男達を見ながら、残念そうな表情を浮かべた。寄せ集めた本人であるレイアス自身は100人隊には手を貸すつもりは全くないみたいで、安全な箇所から様子を眺めていた。
「はじめからこいつらが面白い事をしてくれるなんて期待してなかったけどさ」
喧騒に混じって、レイアスはボソッと呟いた。シャル達を捕らえるべく奮闘している男達には当然だが聞こえないようだ。(聞こえたところでどうせ男達はレイアスをどうすることもできないのだから、別に構わないのだが)
……だが、レイアスの呟きを聞いて、それを快く思わない男が、100人隊の男達とは別にいた。
「あいつ……!!」
喧騒の中心にいたシャルが、レイアスの呟きを耳にして怒りを覚えた。
監禁されていた時からそうだったが、まるで人を玩具のように扱うその態度が気に入らない。100人の男達への態度もそうだ、自分では戦わないくせに男達には要求するばかりだ。
「余所見している隙があるのかこのクソガキ!!」
大男が、数十キロはありそうな巨大な棍棒を振り下ろしてきた。当たれば、良くて脳震盪からの昏倒、最悪の場合脳みそがシェイクされて美味しくないスープができるだろう。
───こいつ、俺を捕まえる以前に殺す気なのか!?この野郎!!
巨大な棍棒が、シャルの脳天に降りかか……
……らなかった。
何故なら、勢いのついた棍棒は、シャルの左手の中で、ピタッと停止したからだった。
「な、なんだと!?」
棍棒を振り下ろした男が、目を大きく見開いた。
「こんなの軽い!俺はルーンで誰かが引っ越しする度に引っ張り出されて、家を担いだりしてたんだよ!」
唖然とした様子の男に、シャルが言った。
シャルは、シャルの言葉に呆然としている大男の腕を振り払い、ジャンプをした。大男の身長を、軽々と飛び越えた。
「ぶへぁ!!」
「……悪いな!!」
シャルは大男の顔を足掛かりにしてさらに跳躍した。シャルの踏み台にされた大男は、当たり所が悪かったのか、その場に倒れ込み、昏倒した。
まだ残っている100人隊の男達を飛び越え壁に足をついた。
目標は、離れた安全な位置から見物しているレイアスだ。
───お前だけは一発ぶん殴ってやる!!
シャルは、安全な位置から……安全だと思っているであろう位置から高みの見物をしているレイアスを目掛けて、壁を蹴った。
シャルの手は、既にグーの形だ。今も尚にやけているその顔に一発、当分消えないであろう拳の痕を残してやる。
レイアスが、自分目掛けて飛んでくるシャルに気が付き……しかしそれでも、余裕の表情のまま、言ったのであった。
「さすがシャルくんだ。すごいねー」
レイアスがそう言った瞬間───レイアスに向かって真っ直ぐ飛んでくるシャルの体を、何かが素早く絡め捕った。
「……!?」
得体の知れない何かはそのままシャルの体に巻き付き、シャルの体の自由を奪った。
「ロ………ロープだと!?」
シャルは、自分の体に巻き付いている物を目にして、目を丸くした。
ロープは素早くシャルの手首に巻き付き、シャルの足に巻き付き……気が付けば、全身を雁字搦めにされたシャルは、レイアスを一発ぶん殴る事も叶わずに、宙ぶらりんの状態になった。
「飛んで火にいる夏の馬鹿だ」
不意に聞こえてきた声に、シャルは首だけを向けた。
シャルを縛っているロープの先を握り締めたアレンが、怪しく眼鏡を光らせている。
……そういや、戦いの渦中にアレンがいなかった。何故気付かなかったんだ。シャルは、アレンの不在に気付かなかった自分を心の中で叱りつけた。
「うわー、すごいなーアレン。シャルくんが俺の方に来る事を見越して、俺の後ろからアレンがロープを引っ張るだけで完成するトラップを張っていただなんて思いもしなかったー」
レイアスが、無駄に説明口調で感嘆の声をあげた。あの白々しさはわざとだろうか。
シャルは、辺りを見渡した。……よく見ると、辺り一帯に、ロープが複雑に張り巡らされている。
レイアスの言うことが正しければ、アレンがロープを引くだけでターゲットの身動きを拘束するような構造らしい。
「ただ殴らせる為だけにレイアスさんを放置する訳がないじゃないですか。
レイアスさんには指一本触れさせませんよ。その為に僕はここにいるんだ」
「……くそっ、こんなロープ……引きちぎってやる!!」
以前レムが魔術でシャルの体に巻き付けた木の根を引きちぎった時のように、暴れてロープを引きちぎろうとした。
……だが、ロープはシャルの力をもってしてもちぎれなかった。ロープは、シャルがもがく度に伸びるばかりだった。
更に、まるでシャルが暴れれば暴れるほどロープに体力が吸い取られるかのように、異様な疲れを感じた。
「力ずくじゃ逃げられないんですよ、そのロープは。大型車2台で引っ張っても切れない、丈夫で弾力性のある特殊な素材でできていますから」
……大型車のくだりは、車が必要ない村に住んでいたシャルには想像できなかったが、とにかく伸びるせいで逃げられないというのはよく理解できた。
「あと、抵抗はしない方がいいんじゃありません?もがけばもがくほど体力を削ぎ落とすように僕が今、手の平から魔力をロープに送っています。
もう遅いと思いますが」
付け足すようにアレンが言った時には、もうシャルは完全に疲弊していた。ちなみに、異様な疲労の早さの要因には、シャルが病み上がりである事も大いにあるだろう。
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