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「なぁ先生。もう年なんだから、あまり走り回らない方がいいんじゃないか?長生きしたいだろ?」


 シャルは、ハウェルに何度も叩かれて赤くなった場所を痛そうにさすりながら言った。


「そう言って私から逃れようとしても無駄だ。殴られたくなかったら、毎回遅刻する事をやめる事だ。」

「わかった、毎回じゃなくて予めちゃんと遅刻する頻度を決めておけばいいんだな?」

「そういう問題ではないわ!たわけ!」


 シャルの屁理屈に再びハウェルは怒りを覚え、シャルを容赦なく殴った。「いっで!」とシャルは呻いた。
 その光景を何とも言えない表情で見ていたアレックスの横で、シャルの弟であるセリが声を張り上げた。


「……一体どこに行ってたんだよ、兄ちゃん!今日も兄ちゃんについていこうと思って起きたら既に家にいないし!道場来てみてもいないし!」

「セリ、お前はここの門下生じゃないだろ。お前には学校があるだろ、学校が」

「だって学校の授業聞いててもつまらないんだもん、それに学校には兄ちゃんもいないしさ。それだったら、ここにきて兄ちゃんが木刀振り回してるのを見てる方が楽しいよ!」

「そうか……。」


 なんともブラコン臭い発言だが、セリがブラコンなのは村では有名な事なのであった。
 因みにERRORは断じてBL小説ではないから、くれぐれもそのような展開は期待しないでいただきたい。


「言ったろう、シャル。この村は山に囲まれている。つまり、凶暴な獣や魔物の巣窟に挟まれている村なのだぞ。」


 ハウェルが言った通り、村は一面の山に囲まれているのだ。エルミナ共和国の温暖な気候の所為もあり、獣や魔物も育ちやすい環境下に置かれている。故に、強い野生の魔物がたくさんいるのである。故に、村の人達は皆強かった。
 魔物の巣窟に囲まれている事が、この村がエルミナ共和国の他の地域との交流が乏しい理由なのである。


「わかっているだろうがな、シャル。お前が一人で村から少し離れる事で、魔物達が一人でいる事をいいことに群れをなして、お前を喰らいに来るかも知れないだろう。
 だから、勝手な行動を起こすなと言っているのだ。」


 ハウェルは、諭すような口調でそう言った。
 自分の稽古がすっぽかされる事が癪であったという事もあるが、それよりもハウェルはシャルの事が心配であった。


「…ごめんよ、先生。でも、俺は一人でも戦えるぞ」

「相手が一匹だとは限らないだろう。よし、物分かりの悪いシャルにちょいと、昔話をしようか」

「まじかよ先生!別にいいよ!っていうかしないでよ!!」

「兄ちゃん、早く先生に謝りなよ!」

「ごめんなさい先生、反省しました!!」


 ハウェルが昔話をすると言った瞬間、シャルは勢いよくハウェルに頭を下げて謝った。
 前に、ハウェルの昔話につきあわされて五時間帰してくれなかったという出来事があったせいだろう。

 三人に力いっぱい拒否されたハウェルは、「そうか……」と言って顔を背けた。その表情は少し寂しそうだった。

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あきゅろす。
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