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『シャル、聞こえているか』
不意に、シャルの頭の中にあの“声”が聞こえてきた。
シャルは、足を止めた。
……さっきも聞いた声だ。一体何なのだろうか?
シャルが疑問に思っていると、その“声”が、まるでシャルを導くかのように言った。
『まだ、外へ出る時ではない。こっちだ、シャル』
こっちだと言われても、目印がなくてはどっちだかわからない。
突然立ち止まったシャルを怪訝に思ったエアリーが、振り返って声を掛けた。
「……どうしたのよ?早く出口へ向かいましょう」
「あ、ああ……ごめん」
心配そうにシャルに声を掛けるエアリーに、申し訳なさそうな顔をして頷く。
脳内に響き渡るその声は気のせいだと自分に言い聞かせ、エアリーについて行こうとした。
『気のせいではない、俺は確かにお前に語りかけている。
シャル。お前なら、わかるはずだ。こっちだ、シャル』
……まるでシャルの考えを聞いたかのように、先ほどよりもはっきりした口調で、“声”は語りかけた。
その瞬間、シャルの中に、何とも言い難い不思議な感覚が沸き上がった。
こっちだ。
そんな事を言われても本来なら漠然としすぎていてわからないだろうが、今のシャルには、何故だかはわからないが、“声”のする方が直感的にはっきりとわかった。
シャルは、自分の直感に従って、身を翻した。
「……どうしたの?そっちは反対方向だわ」
突然元来た道を引き返していくシャルに、エアリーが怪訝な表情をして問い掛けた。
───ああ、そうか。エアリーには聞こえないんだな。
「……ごめんよ、エアリー。ちょっと用ができたんだ」
「あの埃っぽい地下牢から逃げた以上、これ以上ここに用はないでしょう。また捕まりに行くつもりかしら?」
「捕まらないように気を付けるよ。ちょっと気になる事があるんだ」
せっかくエアリーに助けられたのに申し訳ない。エアリーも五星子である以上は女神の騎士団に追われている身なので、エアリーはここで待っていて、ある程度待っても帰って来なかったら置いて行ってしまっていい。勿論、シャルももう捕まる気はないが。
申し訳なさそうにそうエアリーに告げると、エアリーは溜め息を吐いた。
「……そう。仕方ないわね、ちゃっちゃと行くわよ」
そう言うとエアリーは、シャルと同じように踵を返し、先ほど来た道を引き返した。
シャルは慌ててエアリーに言い直した。
「エアリーはここで待っててくれよ。エアリーだって見つかったらまずいんだ」
「もしそれで貴方がまた捕まったら後味が悪いわ。それに、“停止”の効果が切れた時に私が隣にいなかったらまずいでしょう?」
「う……」
「今の貴方は所詮私がいなきゃ駄目なのよ。だから私を頼りなさいよ」
ニッと強気に微笑みながら、エアリーが言った。
……女の子に命を預けている状況は、少し恥ずかしい。だが、それ以上に心強い。シャルは、そう思った。
「さて、どっちへ行けばいいのかしら?場所はわかるんでしょうね」
「あ、うん……こっちだよ、多分……」
そう言って、シャルは歩き出した。
……正直な所、シャルにも漠然としかわからない。ただ、シャルの直感だけがはっきりと告げているだけである。
己の直感のみに従って、行き先もよくわからない、“声”のする方へ歩いていくだけだ。
行き先もわからず、直感のみを頼りに歩き続けて行く。
「───ここだ」
ふと、シャルが上を見上げながら言った。
上に何があるのかはわからない。だが、シャルの直感は、間違いなくここだと言っていた。
「……ここにあるのは間違いないんだけどな……どうやって上がったらいいんだ。流石に堂々と中に入って見に行く訳にはいかないし……」
「ここから上に上がるのかしら?だったら、私に任せてちょうだい」
そう言うとエアリーは、両手を上に掲げた。
「な、何をするんだ?」
「ふふ、見てなさい。
弾けろ!!“キャノン”!!」
エアリーがそう叫んだ瞬間───地下水路の天井が、音を立てて勢いよく爆発した。
激しい爆風が、シャルとエアリーの頬を凄まじい勢いで撫でる。同時に、凄まじい煙がもくもくと上がった。
「なっ……!」
シャルの口から、思わず声が漏れた。が、言葉にはならなかった。
思った事はたくさんある。……なんて強力な魔術だ、とか、砂煙が目に入って痛い、とか、つーか今まで忍んでここまで来た意味は、とか。
当のエアリーはシャルの方を振り返り、どんなもんだいと言わんばかりにばっちりとウインクをした。
……見かけによらず強引で豪快な性格だ。シャルは、エアリーの事を1つ学んだ。
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