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白は、何色にも染まる色だ。
何も描かれていない白いキャンバスに、白い画用紙。そこには、描く者の想像が、描く者の夢が、思い思いに描かれる。
そして、描く者次第でどんな色にでも染まるのだ。
エルミナ共和国の王女・フィオナも、完成された白い3000ピースのパズルに、クレヨンで何かを描いていた。
描かれているのは、2人の人間。2人の少年と少女が、パズルの中心で手を繋いで笑い合っている。
周りが赤黒いのは、夜空だろうか。それとも、もっと別の何かだろうか。
ふと、フィオナが動かしていた手を止めた。
そして、何者かに呼ばれたかのように顔を上げ……何もない宙を眺めたのであった。
「……ついに、この時がやってきた」
ぽつりと呟いたフィオナは、無表情さの中に諦めのような感情を秘めた、複雑な表情をしていた。
「……終焉……殺戮……楽園……
全く、つまらない人生です。未来を変えるには、私は無力すぎる……」
そう呟いて、フィオナは深い溜息を吐いたのだった。
同時刻。
レインボーベル王国の最西端の町・レヴェルに、エミリー・ローバートはいた。
そこは、レインボーベル王国とエルミナ共和国を繋ぐ海底列車の止まる駅で、エルミナ人とレインボーベル人が入り乱れる所だった。
「……レインボーベル王国に来るのも、久しいわね」
レヴェルにある洒落た喫茶店の椅子に座り、新聞を広げながら、エミリーは言った。
かつてエミリーは、レインボーベル王国の技術を学ぶ為に留学しに来た事がある。
レインボーベル王国にやってくるのは、それ以来だ。
今回エミリーがレインボーベル王国にやってきたのは、とある調査の為である。
フェニエス教の動きが最近どうも怪しい。そしてそれには、新型兵器が関わっているというらしい。
その新型兵器が完成されて悪用でもされたら、レインボーベル王国だけでなくエルミナ共和国にとっても痛手だ。
だから、エミリーがその調査に乗り出す事になったのである。
「……とはいうものの、この国なら技術者なんてたくさんいるでしょうに……」
溜息を吐きながら、珈琲を口に入れる。
できることなら、レインボーベル王国にはもう来たくはなかった。
レインボーベル王国に来ると、エミリーは思い出したくない事を思い出すのだ。
当時のエミリーが見捨てた1人の人間の姿が、エミリーの脳裏にふと過ぎった。
頭上には、真っ黒な月がぽっかりと浮かんでいた。
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