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 シャルの家を出てしばらく歩き、アレックスは、村の集落から少し離れた所にシャルを連れて来た。


「この辺でいいよな」

「……なんだ?どうしたんだ、アレックス?」

「あまり、おばさんや先生の前では話したくない事だからな」

「…え?」


 アレックスの言葉に、シャルはきょとんとした顔をした。
 アレックスは、真剣な表情でシャルに向き合う。そして……手を振り上げた。
 次の瞬間、パンッと乾いた音が響いた。同時に、シャルの頬に鋭い痛みが走る。


「ってぇ……何するんだよいきなり」

「………」


 非難がましい目でアレックスを見るシャルを、アレックスは無表情で見据えた。
 そんな様子のアレックスに、今度は不安げに尋ねた。


「……なんだよ。俺、何かしたのか……?」

「……なんだよ、じゃないだろ。何とも思ってないのか、お前」


 無表情のまま、アレックスが静かに言った。だが、その語尾が僅かに震えているように感じられた。どうやら、アレックスは怒っているようだった。
 しかしシャルは、どうして自分が怒られているのかわからなかった。そんなシャルの心情を察したのか、アレックスは静かな声色で続ける。


「……俺は、今までお前がルーズなのを怒った事はないし、別に怒るつもりもなかった。
 お前の自身の事はお前が決めればいいし、俺が介入する事じゃないと思ってたからな。……だけどな」


 アレックスは、シャルの肩を掴んで、シャルの目をじっと見ながら、訴えかけるように言った。


「それでもセリにとっては、お前は唯一の兄貴だから……お前よりも弱いにも関わらず、お前を心配するんだぞ。
 だから、今日だってわざわざお前に会いに行ったんだよ。それが、こんな事態を招いたんじゃないのか?」

「……あ」


 アレックスに言われて初めて、シャルは気付いた。
 自分は今まで、セリに居場所も教えずに1人失踪していた。もし逆の立場だったら、自分はどれだけセリの事を心配するだろう。
 そして自分は昨晩、セリに居場所を教えてしまったのだ。今思えば、きっと自分はセリが一人でこんな場所に来るわけがないと思い込んでいたのだろう。


「わかるか?先生達は今回はお前に気を遣って言わなかったようだがな……今回の件はお前の無責任な行動が起こした結果じゃないか」

「………ごめん」


 シャルは申し訳なさそうな顔をして謝った。アレックスはそんなシャルを見て、小さく安堵の溜め息を吐いた。


「ちゃんとわかってくれたならいい。それに、謝る相手は俺じゃない」

「……あぁ、そうだな」

「いいか?別にお前の行動を制限するつもりはないけど、お前の行動を周りの人間はどう思って、そしてどう行動するのか、それを考えてくれと言いたかったんだ。
 自分の行動には、責任を持て」

「……わかった。ごめん、アレックス」


 シャルが言うと、アレックスはフッと可笑しそうに笑った。


「おいおい、だから謝る相手は俺じゃないっつーの」

「その事じゃないよ、その……お前が言ってくれなかったら、俺、きっと気付けなかった。ありがとう」


 シャルが礼を言うと、アレックスは苦笑を浮かべた。


「……いや、俺の方こそ、すまなかったな。俺がお前に偉そうに説教たれてられるような立場じゃないのは承知だ。俺の方こそ、既にとんでもない事をしでかしてるからな……」

「え?何がだ?」


 アレックスの最後の方の言葉は最早呟きに近かったが、それを聞き漏らさなかったシャルが、思わずアレックスに尋ねた。
 アレックスはまさかシャルの耳にきっちりと入ってるとは思わなかったのか、「やべ……」と口元を抑えた。


「……どうかしたのか?」

「……いや、なんでもない。気にするな。それより、明日稽古が終わった後、ちょっと残ってもらえないか。ちょっと渡しておきたい物があるんだ」

「え……でも俺、明日はハウェル先生の特別指導があるんだぞ?」

「その後でいいんだよ、別に。なんなら俺も付き合うよ、どうせ俺はあそこに住んでるんだし」

「そうか、その後でいいんだったらいいぞ」


 快く頷いたシャルに、アレックスは安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう。すまないな」

「気にするなよ、俺とお前の仲じゃないか」

「……すまないな。本当に」


 アレックスはそう言って、非常に罰が悪そうな表情を浮かべる。
 そんなアレックスに、シャルはニッと笑ってみせた。


「大丈夫だって!また、明日な」

「ああ」


 シャルはアレックスに、ぶんぶんと手を振って分かれた。アレックスも、大きく手を振り返した。


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