13
それからしばらくの間、アレックス達はセリと援交しようとしていた変態男であるレムデスを罵り続けていた。
そして一通りほとぼりが冷めた頃に、ようやくハウェルがドクターに切り出した。
「それで、ドクター。病気を治すにはどうしたらいいのだ」
「専用のワクチンが必要になります。……が、私は生憎ワクチンを持っておりません。
120年前に大流行しましたが、南側の大陸・エルミナ大陸とレインボーベル大陸にはほとんど感染する人がいなかったんです。そのまま流行は終わってしまいましたから、こちら側の大陸ではほとんどワクチンは製造されなかったんです。
今じゃ、北方大陸の医師でも持っているかどうか……」
そう告げるとドクターは下を向いて、罰が悪そうに「すみません……」と呟いた。
「……ドクターのせいじゃないよ。それに、レムデスは、また来るって言ってたんだ。
わざわざセリを連れて行く為に感染させたんだ。きっと、最悪の事態になる前に交渉しに来るに決まってる。
だから…その時にレムデスと話をする」
「…本気か?」
シャルの言葉に対し、アレックスが尋ねた。
「そいつがセリに感染させたんだろ?レムデスが大人しくワクチンを渡すと思うか?最悪、また危険な目に遭うぞ」
「その時は…力ずくでも、レムデスからワクチンを奪ってやるよ。俺だって、やる時はやる。
セリは俺が助けるんだ」
強い口調で、シャルは言った。その瞳には、シャルの意志がはっきりと映っていた。
そう言いきったシャルに、ハウェルとマルクは感心したような……そして、どこか安心したような表情を見せた。
特にハウェルは普段の無気力なシャルをマルク以上に知っているだけに、涙を堪えてさえいるように見えた。
「……よく言ったぞ、シャル。お前を弟子にした事を、今は誇りに思っておる。
私はお前を門下生にしようと思ったのはな、シャル……お前の才能を見込んだという理由だけではない。お前自身を、そしてお前の大切な者を守れるような力を、手に入れて欲しかったからだ。
だが、お前はなかなかやる気を見せようとしなかった。だから私は、常にお前の事が心配だったのだが……今のお前は、いつもよりもずっと、逞しく見えるぞ。
……何かあったら、師匠の私を頼るがいい。私も、力を貸そう」
「先生……ありがとう」
ハウェルの言葉のありがたみが、シャルの心にも響き渡る。
しかしその次には、ハウェルはシャルに厳しい言葉を浴びせるのであった。
「しかしそれはそれ、これはこれだ。シャル、お前は今日も稽古をサボるつもりだったのだろう!」
「うっ……」
「全く、昨日あれほど言い聞かせたというのに!どうせ私は爺だから忘れているとでも思っていたんだろう。だが、私はそこまで甘い爺ではないぞ。
明日は、稽古が終わった後もお前だけの特別稽古だ!わかったな?」
「わ、わかったよ〜」
「マルク、そういうわけだから明日の朝は早くシャルを寄越してくれ」
「はいはい、わかりました」
マルクの返答に満足げな表情を浮かべて、部屋を出て行った。
シャルはげんなりしたような表情を浮かべる。
「……明日から、地獄の稽古が始まるんだろうなぁ……」
「文句言わないの。ちょっとは稽古を積んで、上達なさい?」
文句たらたらなシャルを、マルクが嗜める。マルクの言葉に、シャルはまだ何か気に食わないような表情で、「わかったよ」とだけ返した。
シャルたちがそうしている横で、ドクターが白衣を脱いで上着を羽織った。
「では、私もこれで失礼します。何かあったら、私を呼んでください。すぐに、駆けつけますから……」
「ありがとうドクター」
「……ドクター。私、セリに何かしてあげられる事、あるかしら……?」
マルクは、汗だくになっているセリの額を撫でながら言った。
ドクターは、不安げになっているマルクにやさしく声をかけた。
「なら、セリくんの側にいてあげてください。病気の時……信頼している人が傍にいるだけで、心強いものですから」
「ええ……わかったわ」
そう言って頷くとマルクは、再びセリの額の上で熱くなったタオルを手に取り、ベッドの下にある氷水に入っているタオルをセリの額の上に乗せた。
不意に、アレックスがシャルの肩に手を置いて言った。
「なあシャル、ちょっと話をしようか、外に出よう」
「……ああ」
いつになく真剣な表情で言うアレックスに、シャルは一瞬戸惑ったが、アレックスに促されるまま、シャルは外へ出た。
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