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 シャルは、セリを背負いながら村への帰路を急いだ。走りながら、シャルは先程のレムとのやり取りについて考えていた。

 シャルには、一つ解せない点があった。

 何故、レムデスはセリを連れて行かなかったのか。
 最初、あのレオンとかいうライオンのような生物がセリに突進してきた。セリは失神した。それなら、あそこであのライオンを使って力ずくで俺をねじ伏せて連れて行けばよかったものを。何故そうしなかったか。
 そもそも、あのレオンという生物をセリに突進させる意味は一体何だったのか?まさか盛大な嫌がらせという事はなかろう。

 いや、そんな事よりも。

 奴はまた来ると言っていた。セリから手を引いたわけじゃあるまい。では、またセリに攻撃をしてくる可能性が高いというわけだ。原因を考えるよりも、今後セリを守る方法を考える方が先決だ。原因なんか後で確かめればいい。

 シャルは、村の道場に駆け込んだ。


「シャル!?お前、今まで一体どこをほっつき歩いて……」

「ごめん、先生。でも、それどころじゃないんだ!!」


 シャルの必死な形相を見て、ハウェルとアレックスは背負われているセリを見た。
 頭から血を流してぐったりしている。


「な……セリ!?何があったんだよ!!」

「詳しい話は後でする!!それより、セリを!!」


 アレックスはセリの手当てを始めた。……が、すぐに、シャルに向かって手招きをした。


「シャル、ちょっと来い」

「な、何だよ……」

「セリが、ひどい熱だ」

「え……!?」


 アレックスに促されるままに、シャルはセリの額に触れた。確かに、ひどい熱だった。


「一過性の風邪にしては、あまりにも熱が高いと思うんだ」

「うむ……これは、薬を飲んで寝て治るようなものではないな」


 ハウェルも、神妙そうな面持ちで続けた。


「俺はドクターを呼んでくる。シャルはセリを家に連れて帰っててくれ。急いでだが、セリに負担がかからないようにな」


 アレックスのテキパキとした指示に、シャルは従った。シャルがセリを背負って、道場から出ると、その後ろからハウェルが続いた。

「私も行こう」

「せ、先生!!」

「シャルに色々と聞かなければばならん事もあるからな」


 そう言うと、ハウェルもシャルに続いて走り出した。相変わらず、年を感じさせないような俊敏さだった。

 ふと、シャルの背中で、セリが苦しそうな声を上げた。


「……兄、ちゃん……」

「セリ!?お前、気が付いてたのか!」

「……ごめん、ね……」

「……謝るなよ、大丈夫だ。すぐにドクターが治してくれるさ。だから安心しろよ」

「……うん」


 セリは小さく頷いた。シャルは、家へと向かう足を速めた。


 家に向かう途中、シャル達は一人の男とすれ違った。
 彼はこの村の者ではなかった。他の地域との交流がほぼ皆無であるこの村において外部の人間というのは稀有なものだった。
 しかしシャル達にはすれ違う男に目を向けている余裕などなかったので、気付いていなかったのだが。


「……あれが例の……わざわざこんな偏狭の地まで散歩に来て正確だったかな……」


 男は、綺麗な顔に笑みを作った。


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