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「私達の狙い、ですか。とりあえず…」


 レムは、倒れているセリの方を見た。


「……五星子の、連行です」

「御精子の援交!?何を言ってるんだお前は!!」

「私はただ、あの方の願いを叶えるだけです」


 シャルのボケも完全スルーだ。案外冷たい性格らしい。


「貴方にも少しの間、眠っていただきましょうか。貴方は少し、邪魔です」


 レムは、シャルの目をじっと見た。


「“ララバイ”」


 濃い茶色のレムの目が、深い黒に変わった。
 シャルはレムの目をじっと見て目を離さなかった。

 さぁ眠りなさい、シャル・アーシェイド。
 あなたが眠ると同時に、私は今回の目的を達成するのですよ。

 だが、シャルは一向に眠る気配がなかった。それどころか、眉を顰めてレムから目を背けた。


「……そんなにじろじろ見るなよ……気持ち悪い」

「な……!?」


 ───バカな。そんなバカな話、あるはずがない。


 レムは暗示・幻覚には自信があった。
 このレムの瞳術で失敗した事はなかった。『効かない』なんて事は初めてだった。


「セリ!!大丈夫か!?」


 シャルは、唖然としているレムには目もくれず、倒れているセリに駆け寄った。
 セリは、頭から血を流してぐったりしている。それに、脇腹からも血が出ていた。先程レオンに角で突き上げられた時のものだろうか。
 呼吸はあった。死んではいないみたいだ。しかし、シャルは弟をこんな目に遭わせた目の前の男がただ憎かった。


「おいレムデス!セリを援交するつもりだか何だか知らないが、ここまで酷くやらなくていいだろ!」

「援交しません。私を変態みたいに言わないでください」


 シャルは援交の意味なんてわからずに言っているに違いないが、レムにとっては溜まったもんじゃない。


「くそ、セリの出血が……早く連れて帰らないと」


 シャルはセリを抱え、レムがいる方とは反対の方向に逃げようとした。
 しかし、そう上手くはいかなかった。

 シャルの足元から、尖った岩の柱が地面を突き破ってきた。
 突然の事に、シャルは目を見開いた。 


「じ、地震か!?」

「地震ではありませんよ、魔術です。何故あなたに瞳術が効かないか、なんて問題ではないのですよ。効かないなら効かないなりの戦い方があるのです」

「……マジュツだと……?」


 シャルは、母のマルクが自分達を守る際に時折使っていたのを思い出した。


「……本当なら無理矢理というのは好きではないのですが……あの方の為なら仕方あるまい。セリ・アーシェイドを、黙ってこちらに引き渡して頂く気は、ありますか?」


 シャルは、キッとレムを睨みつけた。


「……渡してどうするつもりだよ?」

「あなた達の知るところではありませんが……神のお告げ、とでも言っておきましょう」

「……髪の毛落つる毛?」


 レムは無論スルーした。


「……よくわからないけど……セリをこんな目に遭わせた奴の事なんか信じられるか!」

「そうですね……では……一千万G(ギル・お金の単位)で取り引きしませんか」


 シャルは眉を潜めた。


「……一千万Gで、セリを売れと言うのか?」

「まぁ、平たく言えばそうなるのでしょうが。」

「………」


 レムの言葉に、シャルは無言になった。その様子を見てレムは笑みを深めた。
 人間なんて所詮強欲な生き物だ。自分の事しか考えておらず、自分の欲には忠実だ。
 自分の目的の為ならこのくらいの金、惜しくはない。レムは頭の中で、自分の歪みない勝利を描いていた。


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