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73.二つの決断 **


そう言って何時ものように爽やかな笑顔を見せた山本さん。でもその表情が一瞬で曇ってしまう。心配になって「山本さん?」と呼び掛けると、



「何て…本当はオレが自分の目で見たモノしか信じたくないだけ何だ」



彼らしからぬ、落胆した声が辺りに響いた。



「オレ、この時代に飛ばされて初めて聞かされたのが『親父が殺された』って話だったんスよ。……その話を聞いた時は頭ん中が真っ白になって、スゲー落ち込んだな」



初めて聞く山本さんの本音は誰もが納得の出来るモノだった。落ち込むのは当然だ。突然知らない世界に飛ばされ、挙げ句に父親が殺されたと聞かされたのだから…。14歳の少年が経験するには余りに辛過ぎる体験だ。



「山本さんは…強い心をお持ちなのですね」

「オレが?いんや、全然。さっきも言ったろ?オレは自分の目で見たモノしか信じない。だから親父の事だって信じたくないだけ何だ。ただの現実逃避。強く何てない」



山本さんは否定したけど、私の考えは変わらなかった。この人は本当に強い人だとそう思う。だって、もし私が彼の立場だったら同じように立ち直る事が出来ただろうか?

答えは否だ。きっと悲しみの余り自分の殻に閉じ篭もって、抜け出す事さえ出来なかったと思うから。だからやはり山本さんは強い。私もその強さを見習いたいと思う。



「山本さん!!!」

「な、何スか?!!」

「私決めました!私も自分の目で確かめていない事は信じません!骸さんの無事を信じます!」



泣くのも止め。落ち込むのも止め。私は……骸さんの無事を信じる!



「な…何か“吹っ切った”って感じなのなι」

「私も現実逃避です♪」



山本さんに習ってニッコリと笑顔を作れば、彼は驚いたように瞳を見開いていた。けれどその表情も束の間。彼は直後に声を上げて笑い出し「最高だなアンタ♪」と私の肩をポンポン叩いた。



「だったら、もう心配する必要はないッスね」

「はい。これも全部山本さんのお陰です」

「オレは何もしてないッスよ。寧ろ今まで誰にも言えなかった事をアンタに話して、オレの方がスカッとした感じだ。…こっちこそ、ありがとな」



“ありがとな”

その言葉が妙にくすぐったくて…、私は頬を染めながら小さく俯いた。



「さて、オレも修行に戻るとするか!小僧の奴を待たせてるからな♪」


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