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30.流れる 雲 ***


そして近くのソファーに腰を下ろすとニッコリと笑顔を向けた。



「どうして!だってこの作戦なら完璧だって、貴方が…っっ」

「そうだね。でもねファルチャン。僕も幼なじみの君に『どうしても雲雀恭弥が欲しい』と泣き付かれたから急いで準備をしたんだ。だから絶対失敗しない何て保証は出来ないんだよ。…それに雲雀チャンに飲ませた忘却薬(ぼうきゃくやく)って薬はね、ミルフィオーレでも研究中のモノ何だ。だから何時効力が切れても可笑しく無いんだよ」



ファルファッラは目の前が真っ黒になった。


――恭弥の記憶が…戻、る?私の元から居なくなる。……そんなの否!やっと、やっと私のモノになったのに……っっ


ギリッと歯を食いしばる彼女を横目に、白蘭は何処から取り出したのか、白いマシュマロを指で潰して口元へ運んだ。それから「だけど…」と不思議そうに首を傾げる。



「ちょっと変だよね。幾ら未完成だからと言っても、効力が切れるのが早過ぎる。…まるで――彼が記憶を取り戻すような“何か”もしくは“誰か”と接触したみたいな…ねえ?君はどう思う?」

「――…っっ」



白蘭の言う『誰か』と言う言葉で、ある人物の顔が脳裏を過ぎった。



「……歌姫…」



その名を口にした瞬間、彼女は納得した。これで全ての辻褄が合う。雲雀の様子が変わってしまった理由。それは…。



「…そう。あの女に会ってしまったからなのね」



恐らくあの日。雲雀が居なくなったあの時。二人は遭遇してしまったのだ。それがどういう経緯でかは分からない。けれど歌姫と会った事で記憶を取り戻し掛けたのなら?彼が頻繁に外出するようになった理由があの女を探す為だったら?



「直ぐに車を出しなさいっ!!早くっっっ」



これ以上あの女に会わせる訳にはいかない。次に歌姫に会ってしまえば雲雀は確実に記憶を取り戻してしまう。自分の傍から居なくなってしまう。そんな気がする。



(そんな事させない!絶対にさせないわ!!!…恭弥は私のモノよっ)



ファルファッラは部下に指示を出し、直ぐ様部屋を飛び出したのだった。




◇ ◇ ◇


ファルファッラの背中を見送りながら、静まり返った室内で白蘭はクスリと笑みを零した。



「フフフ。まさかファルチャンが此処まで本気になってるとはねー」



流れる 雲


(もう直ぐ決着が付きそうだよ…沢田綱吉クン)


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