上空で激しく激突し合う、雲雀さんと幻騎士。
暫くの間そんな二人を見上げていた私だったけれど、倒れた山本さんの姿が脳裏を過ぎって、ハッと後ろを振り返った。
「山本さん!!」
慌てて駆け寄り、呼吸を確かめる。良かった。気を失ってるだけだ。だけど外傷が余りに酷い。
「何とかしないと…」
唇を噛み締めた後、躊躇いながら交差した両手を山本さんの胸に添える。そして、少し離れた場所で倒れているラル・ミルチさんに視線を向けた。
『良いか?名前。何があっても“3つ目の力”だけは使用するな』
今回の作戦が始まる前、何度もラル・ミルチさんに言われた事。――ううん、違う。そう言われていたのは、もっとずっと前。それも彼女だけではなく、リボーンさんにも、コロネロさんにも、風さんにも言われた事だ。
『眠りの歌』や『守りの歌』は使用しても構わないが、『最後の力』だけは絶対に使ってはならない。彼女達がそう念を押すのには訳があった。
私も“その訳”を知っている。知っているけど、
(ごめんなさい、ラルさん。山本さんの為にも、そして――貴女の為にも、皆さんの“言いつけ”守れそうにありません)
私は仲間を助けたいの。
意を決し、力を集中させようとした…その時だ。グニャリと辺りの景色が歪んだように見えた。
「綻び始めたようだね」
雲雀さんの声に促されて顔を上げると、雲ハリネズミが削り取った幻覚の向こうに、黒い…別の空間が見えていたのだ。
でも驚くのはそれだけではない。綻びた幻覚の裂け目から“何か”がポロポロと零れ落ちていて。
「「海牛?」」
ポツリと呟いた私の声と雲雀さんの声が重なる。これが幻騎士の匣兵器。
「それは幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)姿を見たのはお前達が始めてだ。――そして」
すると突然零れ落ちていた幻海牛が空中で停止。
「最後の人間となる」
次の瞬間、姿を消して私達に襲いかかって来た。避けなきゃ!!でも姿が見えないモノをどうやって避ける?それに私が避ければ山本さんに――、
(直撃するっっ)
私は咄嗟に山本さんの身体を引き寄せ、庇うように強く抱き締める。
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