「Σな!!てっきり匣に戻ってっかと!…瓜っ」
雲雀から瓜を受け取ろうと獄寺が手を出した瞬間、瓜は主人である獄寺の顔にダイブ。しかも、顔をひっかく始末だ。
夜中だと言う事も忘れ、ギャアギャアと騒ぎ出す綱吉達…。しかし、そんな彼らをこの人物が放って置く筈がなかった。
「…夜は静かにね…」
底冷えするような低音。
「君達…風紀を乱すとどうなるか…知ってる?」
元・並盛中学風紀委員長、雲雀恭弥だ。彼は愛用のトンファーを構えて綱吉達を睨みつける。
経験上、十中八九咬み殺される事を覚悟していた綱吉達。だが予想に反し雲雀は武器を納めた。
「…眠い…今度ね…」
小さく欠伸を零しながらフラフラと踵(きびす)を返す雲雀。どうやら本当に眠いらしい。
「待て雲雀!…あ、あんがとなっ。いずれこの借りは返す…ぜ」
「…期待せずに待つよ、獄寺隼人」
再び歩き出した雲雀を今度は綱吉が呼び止める。
「雲雀さん!」
呼び止められた雲雀は視線だけを綱吉に向けた。
刹那、綱吉はぎゅっと拳を握り締め、雲雀に向かって頭を下げる。
「名前さんを頼みます」
悔しかった。誰かに名前を任せなければならない事が。自分が名前を守れない事が。悔しくて悔しくて堪らなかった。
本音を言うと彼女も連れて行きたいと言う思いもある。離れたくなくて、傍にいて欲しくて。『一緒に行こう』と何度言い掛けたか分からない。
けれど冷静になって気付くのだ。自分の力では彼女を守りきれないと。
だから託す事にした。ボンゴレ最強の守護者と言われる雲雀恭弥に…。彼ならきっと名前を守ってくれる。だって、雲雀自身が彼女を守りたいと望んでいる筈だから…。
けれど返って来たのは、
「嫌だ」
予想外の答え。驚き顔を上げた綱吉に雲雀は冷ややかな眼差しを向ける。
「…あの子を守るなら僕は自分の意志でやる。……死んでも君の頼み何て聞くつもりは無いよ」
そして一瞬だけ口元を緩め、彼はこう告げた。
「…君と違って――僕は“強い”からね…」
闇の中へ消えて行く雲雀を見送りながら、綱吉は初めて思ったと言う。
――彼に…雲雀恭弥に
“負けたくない”と。
もう直ぐ朝が来る。
全てが始まり、全てを終わらせる為の朝が…。
恐れ・不安・希望。それら想いを胸に若き10代目ファミリーは動き出す。
夜明け前
(未来を変える為に)
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