皆の新しい修行が始まって、3日が経過した。
「…今日も『御馳走様』の前に寝ちゃったね」
「は、はい」
驚いたように瞳を見開く京子さんとハルさんの前には、机に突っ伏し、スヤスヤと眠る沢田綱吉さんと山本武さんの姿。
「余程お疲れ何ですよ」
私は苦笑を浮かべながら二人にお茶を差し出す。京子さん達と違って、私自身は彼らの修行を何度か見学している。だから皆が熟している修行がハードなどという言葉では済まされない程、過酷なモノだと理解していた。それは『良く夕飯を食べる気力が残っているな』と驚いてしまう位。
「獄寺さんは今日も一人だけ席離れてますし…」
「…怪我…大丈夫かな」
二人の視線の先には壁際で一人食事を取る獄寺さんの姿…。その様子を京子さん達が心配そうに見つめる。私は二人に気付かれないよう、ギュッと両手を握り締めた。
気の所為かも知れないけれど此処数日、獄寺さんに避けられているような気がする。はっきりと拒絶された訳ではないから断言は出来ないが、恐らく間違ってはいない筈。話掛けても殆ど返事を返してくれないし、決定的なのが目を合わせてくれない事だ。…私、何か獄寺さんの気に障る事をしてしまったのだろうか。
「ほっときなさい」
カチャリと箸を置いたビアンキさんが呟く。
「自分の修行の不甲斐なさを恥じてるのよ」
「上手くいってねーのか、ビアンキ」
「…ええ。一分間にやっと蠍を二匹…。――何よりあの子、やる気があるのか、ないのか……」
ガタリッ…。リボーンさんとビアンキさんの会話を聞いていたであろう獄寺さんが、乱暴に椅子から立ち上がる。
「……リボーンさん、お先に休ませて頂きます…。……10代目にも宜しくお伝え下さい…」
「嗚呼」
そう言って獄寺さんは後ろを振り返る事なく、キッチンを後にした。シンと静まる室内…。リボーンさんのお茶を(すす)る音だけが辺りに響く。
「…お前と獄寺は“例の件”もあるし、水と油だとは思っていたが…。やはりこの組み合わせは無理があったのかもな」
「――いいえ。多分それだけではないわ…」
「ビアンキ?」
「……軟弱なのよ…」
ビアンキさんは残りのお茶を一気に飲み干すと、カタリと席を立つ。
「あの子の事は最後まで見させて下さい。…お先にお風呂頂きます」
「嗚呼」
彼女もまた獄寺さん同様、一切こちらを振り返る事なく、キッチンを後にした。残された私達の間には再び沈黙が流れる。
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