129.D・スペードの魔レンズ **
「しまった!!??」
「ボンゴレの奴、いつの間にあんなトコまで!」
想像以上の綱吉のスピードに、桔梗とブルーベルが唇を噛み締めた。
――が、それは一瞬の間のみ。気付けば二人は口元に笑みを湛えていて。綱吉が違和感を感じた時には、全てが遅かった。
「ププ。なんちゃって」
「ハハン。かかりましたね、ボンゴレ]世。貴方さえ引きずり出せば、後はこちらのものです」
「…どう言う意味だ」
「忘れた訳ではないでしょう?白蘭様が最も欲するものは何なのかを」
それを聞いた瞬間、綱吉はハッとしたように、ある人物を振り返った。
「まさか――名前!!??」
「ええ。彼女がこの場に現れた時点で、我々の目的はユニ様から名前様に変わっているのですよ」
「くっ」
綱吉は拳を握り締めた。何故気付かなかった。これは自分を誘き出す為の“陽動”だったのだと。
桔梗の言う通り、奴らの標的は既に名前に絞られていて、その為に唯一負傷していない綱吉を遠ざける為、態とユニを狙ったように仕向けたのだ。
猛スペードで名前の元に戻ろうとした綱吉。だがそんな彼の前に、トリカブトが立ちふさがる。
「……哀しき者よ」
刹那、トリカブトがマーレリングに炎を灯した。
そして羽織っていたローブをはぎ取り、左胸を露(あら)わにした瞬間、そこにはディーノから報告があった通り、本当に匣が埋め込まれていて…。
「いきますか」
「息止めるから待った」
ブルーベルが瞳を閉じて鼻を摘んだ後、トリカブトは胸に埋め込まれた匣に炎を注ぎ込み、開匣。
ヤツの周囲を、凄まじい量の、炎エネルギーが渦を巻いて取り囲んだ。
そして、その炎エネルギーが吹き飛んだ直後、姿を見せたトリカブトを目にし、名前は絶句。
修羅開匣したトリカブトの姿は正しく『蛾』その物。並中で見たデイジーなど比ではない、その不気味な容姿に、名前は思わず顔を背けてしまう。
「今更目を逸らした所で、既に手遅れですよ」
突如聞こえた桔梗の声に、名前が「え?」と顔を上げた直後だった。
「……終焉の時」
フワリと身体が宙に浮いて、周りの景色が回り始める。凄まじい幻術だ。
「この幻覚、チョイスの時より強い!」
「修羅開匣とは、人間と匣兵器の能力を掛け合わせた物。蛾の擬態を進化させたトリカブトの、羽根の目玉模様を見た者は、一瞬にして五感を狂わされ、真実を見失う」
目を閉じたまま、説明を加える桔梗に対し、綱吉はギチリと歯を噛み締める。直後、目の前に居た筈のトリカブトが、霧のように姿を消したのだ。
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