「凄いね…初めて見た」
「本来は本部の最深部での儀式ですし、最近は行われていませんからね」
「あーやって、パラレルワールドを覗くんだね」
「実際は入江正一が言っていた程簡単なものではありません。無理をなさらなければ良いのだが」
しかし、そう言う訳にもいかないだろう。何せ名前が関わっているのだ。
彼女が関わると白蘭は途端に余裕をなくす。それは全て歌姫が封印する大地の匣が原因だからだと桔梗は思っていた。けれどそうではないと、この戦いで思い知らされる。
チョイス戦での、あの歌姫の力の暴走。あれを間近で見た時、桔梗は鳥肌が立った。この世の中に、あそこまで巨大な力を秘めた人間が存在するとは思わなかったからだ。
そして、あの『驚異』こそが、白蘭の求めるものなのだと、そう思った。
けれど、その後、逃げた名前を追いかける桔梗達に白蘭が告げたのは、
『あの力を二度と名前に使わせてはいけない。だから、一般人の殺しは目の届く範囲でしようね』
何故か名前の事を気遣うもので…。桔梗は戸惑いを隠せなかった。
彼女の力があれば、世界を手中に収める事など造作もない筈なのに何故?
ザバババッ
その時、大きな音を響かせながら目の前の巨大な物体が弾け飛ぶ。弾け飛んだと同時に、液体がボタボタと地面に叩きつけられ、物体の中に入っていた白蘭が、全身びしょ濡れの状態で姿を現す。
「…ハァ……ハァ…」
瞑想とは相当な体力を消耗するのか、白蘭は肩で息を繰り返し、顔をしかめていた。それから突き刺すような瞳で、息も絶え絶えに、こう告げる。
「ユニを…見つけた。川平という…不動産屋だ」
桔梗はまたしても戸惑った。何故、名前ではなく、真っ先にユニを探し出したのかと。けれど、それを白蘭に問う訳にはいかない。何故なら自分達のやるべき事は、彼に意義を申し立てる事ではなく、彼に従う事だから。
白蘭がユニを先に見つけたと言うなら、自分達の行うべき事はただ一つ。
「ブルーベル、トリカブト。参りましょうか」
白蘭様の望みを叶える為、ユニ様を迎えに行く。
突き止められた在処
(ユニに魔の手が迫る)
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