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12.決意表明**

動き出した車の窓から、夕日に染まる街の景色が良く見えた。
どこもかしこもキラキラと輝いていて、まるで宝石箱の中みたい。
そう言えば、こうしてイタリアの街をじっくり見て回るのは、初めてではないだろうか。
何せ旅行初日から観光どころではなかったから。

だから少しでも目に焼き付けようと流れる街並みを眺めていると、急に車が停車してドアが開いた。
どうやら気付かない内に、目的の場所に到着していたらしい。

「ほら、名前」

そう言って右手を差し出してくれたのは、山本さんだった。
先程の事が脳裏を過ぎって少し照れはあったけれど、私はその手を取って車から降りる。

立派な外観の建物の側で、支配人とおもしき年配の男性が私達を出迎てくれた。
五人並んで中に入り、案内されたのは大きなシャンデリアが印象的な、長いテーブルのある一室だった。
室内を見渡せば、部屋の隅々に見覚えのない顔が幾つもあって、緊張が走る。

「お、来たな」

入り口に佇んだままの私に優しく声を掛けてくれたのは、キャバッローネファミリーのボス、ディーノさん。
見知った顔を前に私はホッと安堵し、肩の力を抜く。

「何だ名前、身体が強ばってるぞ?」
「建物の立派さに圧倒されてしまって──、凄いですね」

格式の高い店だとは伺っていたが、ここまでとは思ってもみなかった。
頭上で輝くシャンデリアを見上げながら感心しきりの私に、ディーノさんが小さく笑むのが見えて。

「どうかされましたか?」
「いや、今日はいつもと印象が違うと思ってな」

それはそうだろうなと、私は苦笑いを浮かべる。
普段は庭作業に没頭する為、日焼け止めを除けばほぼノーメイクに近い。
髪型も後ろで一つに束ねたお馴染みのスタイルばかりで、下ろした事もなかったように思う。

「普段からきちんとしないといけないんですけどね」

素敵な男性陣に囲まれているのだから、女性としての最低限の身だしなみくらいは、と思わなくもない。
けれど慣れとは恐ろしいもので、長く滞在するに連れ、最近はすっかりご無沙汰になってしまった。
沢田さん達が何も言わないと言うのも、大きな要因かも知れないが。

だから今日のようなバッチリメイクのゆるふわカールヘア姿には、鏡を見た私ですら驚いたくらい。
自分自身ですらそう思うのだから、周りからすれば、さぞ違いも解る事だろう。
普段が普段なだけに余計にそう感じるのだと冗談めかして話す私に、ディーノさんは小さく首を横に振る。

「そんな事はない。何時ものお前も着飾らなくて俺は好きだけど──」

こちらを見つめながら、穏やかに微笑むディーノさん。

「その格好も良く似合っている──…綺麗だ」

そんな彼に何と返せば良いのか、上手く言葉が出てこなかった。
私は目の前のディーノさんを直視する事が出来ず、俯くのが精一杯。
頬に集まった熱をどうにか冷まそうと自分の指先を押し当てようとした、その時だった。

「………?」

不意に視線を感じて、私は顔を上げる。
視線を感じた方角に目をやると、そこにはこの場に似つかわしくない、マントを羽織った人物が立っていた。
ゴーグルをしているせいで、こちらを見ているのか良く解らない。
でも確かに見られていたような、そんな気がしたのだが、気のせいだったのだろうか?

「全員揃ったな」

刹那、静かだった室内に聞き覚えのある声が響いた。
その場にいた全員の視線が集中した先、扉の入り口に立っていたのは沢田さんと獄寺さんだ。

「急に呼びつけてすまない。至急、耳に入れたい事があって集まって貰った──名前」
「は、はい!」

突然名前を呼ばれて、私は慌てて沢田さん達の側に駆け寄る。
場内の視線が自分に移るのを肌で感じて、身体が強ばった。


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