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114.力の暴走


「――さ…!…さんっ」



遠くの方で、誰かが何かを叫んでいる。その何かは、次第にはっきりと聞こえるようになり…、



「名前さん!!!」



私の名だと分かったの。
重い瞼をゆっくり開けると、目の前には傷だらけの入江さんの姿が…。
どうやら私は気を失っていたらしく、意識の戻った私を見て入江さんはホッと安堵の息を吐いた。



「名前…さん!良かった…無事だったんですね」



そこで私はハッとする。
そうだ。基地ユニットが桔梗に攻撃されたのだ。

慌てて身体を起こそうとした私だったが、突如声にならない程の激しい痛みが全身を襲って、私はグッと唇を噛み締めた。



「無理は…しないで下さい。衝撃で、身体を痛めている筈…です、から」

「入江さんは?」

「僕の事は…良いん、です。それより、まだチョイスは終わって…いない。敵は必ず僕を狙って来る…筈だ。貴女はスパナと此処に残って…下さい。スパナを…頼みます」



それだけ告げると、入江さんは傷だらけの身体に鞭を打つように、ゆらりゆらりと立ち上がった。

覚束ない足取りで、出口に向かって歩き出す彼を私は咄嗟に呼び止める。



「私も…行きます」



弾かれたように、こちらを振り返る入江さん。



「な、にを…言って」

「私が入江さんを守ります。今は一分一秒でも時間が必要な時。私が貴方の盾になればその時間を稼ぐ事が出来る筈です」

「駄目だ!!貴女を盾にする何て、僕には――っ」



『出来ない』きっとそう続くであろう彼の言葉は、ぷつりと途切れた。
代わりにこれでもかと言う位、入江さんの瞳は大きく見開かれていて。
それは多分、目の前の私が微笑んでいたから…。

私は痛みを堪えながら立ち上がると、入江さんの傍に歩み寄り、彼の右手をそっと握り締めた。



「絶対に勝ちましょう」

「………」



彼は何も応えてくれなかったけれど、代わりに私の手を握り替えして。



「…行きましょう」



小さく呟かれた言葉に私は大きく大きく頷いた。




◇ ◇ ◇


ユニットの外へ飛び出すと、私達は走り出した。
互いに互いの身体を支え、一歩・また一歩と確実に歩幅を進めていく。
山本さんが敵ターゲットを倒すまでは出来るだけ遠くへ。一秒でも長く。



『オペレーションX』



朦朧(もうろう)とする意識の中、通信機から、誰かの声が聞こえて来た。
刹那、ドドドドドという地響きと共に、辺りの空がオレンジ色に輝いて。



『異空間を脱出した』



声の主は間違いなく10代目ボス、沢田綱吉さん。


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あきゅろす。
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