(それでも自分の気持ち位は分かる。このまま見ているのは絶対に嫌!!)
「…何の、つもり…だ」
傍らに立つ私を、苦痛に顔を歪めた幻騎士が不快そうに見上げて来る。
「貴様の、同情など…」
「違います!同情なんかじゃありません!!これは私のエゴ。ただ私が見ていたくないだけです!」
そう。幻騎士の為なんかじゃない。自分の為だ。私は自分を満足させる為に幻騎士を助けたいの!
(雲属性の炎の特徴は増殖。ならば、その作用を止めれば何とかなる筈)
運の良い事に、歌姫の能力である『眠りの歌』は、雨の炎と同じで鎮静の作用が働いている。ならば、眠りの歌を奏でれば雲桔梗の増殖も鎮める事が出来るかも知れない。
私は意を決し、旋律を奏でるべく大きく息を吸い込む――が、不意に見下ろした幻騎士が、微かに笑っている姿が目に入って、動きが停止する。
「…お前、は……ユニ様に、似てい……る…」
何故ならそれは、初めて見る幻騎士の微笑みで。
「不思議な女、だ…歌姫。いや…名字……名前」
最後の――笑顔。
「離れろっ、名前!!」
幻騎士の笑顔に目を奪われていた私は、その後、何が起こったのか、全く理解できなかったの。
山本さんが私の元に飛んで来て。彼の腕に抱き寄せられて。そして何かが弾ける音が耳に届いた。
「幻騎士ーーー!!!!!」
山本さんの叫び声と、辺りに漂う鉄の臭い。その双方が幻騎士が花の如く散った事を物語っていて。どうしてかな。涙が溢れて止まらなかった。
敵の手ではなく、味方によって最悪の結末を迎えた幻騎士。彼は一体どんな想いで散っていったのだろうか。それを考えると胸が痛くて、苦しい。
「……っ…」
声を殺して泣きじゃくる私を、山本さんは、ただただ黙って抱き締める。
「エゴじゃ…ねーだろ」
そして囁かれた一言。
「幻騎士を助けたかったのはエゴなんかじゃねー。アンタは幻騎士に自分の為だって、そう言ってたけど、エゴで他人の為に泣く人間なんて、オレは居ないと思う。それは名前の――…優しさだ」
そう言って私を抱き締める山本さんの腕は、とても温かくて…。彼の言葉と優しさに、私は更に涙を溢れさせるのだった。
最後の笑顔
(私は……忘れない)
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