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111.最後の笑顔


「グァアアア!!!」



悲痛な叫び声が響いた後、幻騎士はドサリと地面に落下する。上空を見上げれば、そこには小刀に炎を灯したまま、停止している山本さんの姿が。



「ふぅ。お疲れ小次郎」



彼が刀の形態変化を解いたこの瞬間、私は初めて『戦いに勝ったのだ』と、理解する事が出来た。
山本さんが勝利した事は嬉しい。嬉しいけれど、それなら幻騎士は?彼はどうなったのだろうか?
瞳を揺らしつつ、地面に倒れる幻騎士を見れば彼の身体が微かに揺れて。



「……何故、だ…」



幻騎士は無事だった。



「…ボンゴレといい、貴様とい…い、何故…トドメを……刺さない」

「だって、オレ達は“人の命を取る為に戦ってる訳じゃねー”からな」

「山本さん」



幾ら敵と言えど、簡単に命を奪って欲しくない。
私自身もそう思って居ただけに、彼の言葉は。考えは。とても嬉しくて…。自然と笑みが零れる。



「後悔するな。俺は白蘭様の為に、いずれ必ず目的は遂行する。必ずな」

「嗚呼、望む所だ!!」



次なる対戦を誓い合う二人に、益々笑みが零れそうになる。きっと、彼らのような人の事を『好敵手』と呼ぶのだろうな。
そんな事を考えながら、未だ上空に浮かぶ山本さんの元へ私が走り寄ろうとした時、幻騎士の身に、ある異変が起こった。



『ハハン』


「!!」

『強運ですね幻騎士。我々はミルフィオーレ一の剣士を失う所でした』


「桔梗か」



桔梗?突然、幻騎士の口から発せられた名前に、私は訝しげな顔をする。



『貴方の話は聞いています。ミルフィオーレ結成の“立役者”であり、白蘭様の“影の右腕”。あらゆる隠密作戦を成功させ、今回のような重要な戦いには必ず最前線に召集される、白蘭様が“もっとも頼りにする男”』


「当然の事。白蘭様は全てを見通しておられる。だからこそ俺に奇跡をお与えになった。誰よりも俺を奇跡に値する人間として信頼しておられるのだ」



幻騎士は何を言っているの?それに白蘭が『奇跡』を与えたとは一体…。
いや。それよりも今は桔梗に警戒をしなければ。幻騎士が倒された事により、彼がこの場に来る可能性だって全くないとは言い切れないのだから。

――しかし、そんな私の考えとは裏腹に、事は意外な方向へ進み始める。


パキパキ。ボウ。


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