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12.決意表明

約束の時刻まであと僅かに迫っていた。
私は玄関先に佇み、緊張した面持ちで、その時を待つ。

「…大丈夫?」

そんな私に声を掛けてくれたのは、綺麗に着飾ったクローム髑髏さんだ。
膝丈のヴィンテージのゴシックコートが彼女の着ける眼帯と相まって、良く似合っている。
心配そうに顔を覗き込む彼女に、私は笑顔で頷いた。

「はい。クロームさんやビアンキさんのおかげで、大分気持ちが楽になりましたから」

不安しかなかった先程までとは違って、微笑む余裕も生まれて来た。
服装や作法の事で、どうすれば良いのか半ばパニック状態となっていたが、
『店のオーナーが先代からの付き合いで、ボンゴレ関係者はあまり服装を重視されない事』、
また『完全個室の為、マナーもさほど気にする事はない』との事だ。
二人からその話を聞いた時は、安堵からその場に崩れ落ちそうになったくらい。

「隼人の説明が不十分だったばかりに、ごめんなさいね」

ワンショルダーの深紅のミニドレスに身を包んだビアンキさんが、申し訳なさげに眉を下げる。
そんなビアンキさんの姿に見惚れつつ、私はフルリと首を横に振った。
きっと獄寺さんの事だから、きちんと私に話そうとしてくれていたに違いない。
けれど私が途中で遮ってしまったから、話せずじまいだったのだ思う。

「もう直ぐ迎えの車が到着する筈よ」

ビアンキさんが腕時計を確認した直後、黒塗りの車が私達の前に停車する。
運転席から降りてきたのは山本武さんだった。

「悪い、待たせたか?」
「いいえ。時間通りよ、山本武」
「ちょっと道が混んでてさ。間に合わないかとヒヤヒヤしたぜ」
「山本さん、どこかに行ってらしたんですか?」
「ああ、ちょっと空港まで迎えにな」

そう言って山本さんが車を振り返る。
彼の視線に促され、追いかけるように目をやると、助手席のドアが開いた。
車から降りてきた人物を見た瞬間、私は声を上げる。

「笹川さん!」
「久し振りだな、名字」

お日様のような笑顔を浮かべた、ボンゴレ守護者の一人、笹川了平さんだ。
日本に帰国されてから数週間しか経過していない筈が、凄く懐かしく感じて。
嬉しさのあまり、私は笹川さんの側に駆け寄った。

「お久しぶりです。笹川さんも沢田さんに?」
「ああ、ボス命令でな。それにお前の事も気になっていたしな」

ポンと優しく肩を叩かれ、心が温かくなる。
気にかけて貰えていた事を素直に嬉しいと、そう思えた。

「それにしても、少し見ない間に随分綺麗になったものだな」
「い、いえ!これはビアンキさん達の見立てが良かったから、そう見えているだけで……っ」

日本から持参した黒色ワンピースのパーティードレス。
袖部分にレースをあしらった控え目なデザインのおかげで、私でも無理なく着る事が出来た。
しかもこのドレスに合うよう、メイクやヘヤースタイルまで二人が手掛けてくれたのだ。

「謙遜する事ないだろ。オレも──良く似合っていると思うぜ」

山本さんにまでそう言われてしまい、全身の血液が頬に集中するのが解った。
お世辞だという事は解っている。解っていても、照れずにはいられない。
落ち着きなく瞳を彷徨わせる私に助け船を出してくれたのは、微笑ましげに見守っていたクロームさんだ。

「…そろそろ行かないと、ボスが待ってる」
「おっと、そうだったな!」

慌てたように後部座席のドアを開け、山本さんが乗るように促す。
私から順に乗り込み、全員が座ったのを確認すると、自らも運転席に乗り込んだ。
最後に笹川さんが助手席に座り、シートベルトを締めたのを合図に、車はゆっくりと動き出す。


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