約束の時刻まであと僅かに迫っていた。
私は玄関先に佇み、緊張した面持ちで、その時を待つ。
「…大丈夫?」
そんな私に声を掛けてくれたのは、綺麗に着飾ったクローム髑髏さんだ。
膝丈のヴィンテージのゴシックコートが彼女の着ける眼帯と相まって、良く似合っている。
心配そうに顔を覗き込む彼女に、私は笑顔で頷いた。
「はい。クロームさんやビアンキさんのおかげで、大分気持ちが楽になりましたから」
不安しかなかった先程までとは違って、微笑む余裕も生まれて来た。
服装や作法の事で、どうすれば良いのか半ばパニック状態となっていたが、
『店のオーナーが先代からの付き合いで、ボンゴレ関係者はあまり服装を重視されない事』、
また『完全個室の為、マナーもさほど気にする事はない』との事だ。
二人からその話を聞いた時は、安堵からその場に崩れ落ちそうになったくらい。
「隼人の説明が不十分だったばかりに、ごめんなさいね」
ワンショルダーの深紅のミニドレスに身を包んだビアンキさんが、申し訳なさげに眉を下げる。
そんなビアンキさんの姿に見惚れつつ、私はフルリと首を横に振った。
きっと獄寺さんの事だから、きちんと私に話そうとしてくれていたに違いない。
けれど私が途中で遮ってしまったから、話せずじまいだったのだ思う。
「もう直ぐ迎えの車が到着する筈よ」
ビアンキさんが腕時計を確認した直後、黒塗りの車が私達の前に停車する。
運転席から降りてきたのは山本武さんだった。
「悪い、待たせたか?」
「いいえ。時間通りよ、山本武」
「ちょっと道が混んでてさ。間に合わないかとヒヤヒヤしたぜ」
「山本さん、どこかに行ってらしたんですか?」
「ああ、ちょっと空港まで迎えにな」
そう言って山本さんが車を振り返る。
彼の視線に促され、追いかけるように目をやると、助手席のドアが開いた。
車から降りてきた人物を見た瞬間、私は声を上げる。
「笹川さん!」
「久し振りだな、名字」
お日様のような笑顔を浮かべた、ボンゴレ守護者の一人、笹川了平さんだ。
日本に帰国されてから数週間しか経過していない筈が、凄く懐かしく感じて。
嬉しさのあまり、私は笹川さんの側に駆け寄った。
「お久しぶりです。笹川さんも沢田さんに?」
「ああ、ボス命令でな。それにお前の事も気になっていたしな」
ポンと優しく肩を叩かれ、心が温かくなる。
気にかけて貰えていた事を素直に嬉しいと、そう思えた。
「それにしても、少し見ない間に随分綺麗になったものだな」
「い、いえ!これはビアンキさん達の見立てが良かったから、そう見えているだけで……っ」
日本から持参した黒色ワンピースのパーティードレス。
袖部分にレースをあしらった控え目なデザインのおかげで、私でも無理なく着る事が出来た。
しかもこのドレスに合うよう、メイクやヘヤースタイルまで二人が手掛けてくれたのだ。
「謙遜する事ないだろ。オレも──良く似合っていると思うぜ」
山本さんにまでそう言われてしまい、全身の血液が頬に集中するのが解った。
お世辞だという事は解っている。解っていても、照れずにはいられない。
落ち着きなく瞳を彷徨わせる私に助け船を出してくれたのは、微笑ましげに見守っていたクロームさんだ。
「…そろそろ行かないと、ボスが待ってる」
「おっと、そうだったな!」
慌てたように後部座席のドアを開け、山本さんが乗るように促す。
私から順に乗り込み、全員が座ったのを確認すると、自らも運転席に乗り込んだ。
最後に笹川さんが助手席に座り、シートベルトを締めたのを合図に、車はゆっくりと動き出す。